「時間」を贈る vol.1
【たべる、つながる、おいしい時間】

もうすぐ母の日。
離れていても、そばにいても、
ありがとうを伝えることって、
なかなか難しい…。
 
せっかく伝えるのなら、
じんわり心に残る、とびきり喜んでくれる、
そんな愛ある贈りものがしたいですよね。
 
ami-amiでは暮らしの在り方が
大きく変化した世の中で、
今だからこそ「時間」を贈ってみるという
選択肢を考えてみました。
 
数多ある時間の中で注目したのは、「食べる」時間。
誰しも経験があって日々欠かせない時間であると同時に、
同じ釜の飯を食うなんて言葉もあるように、
人と人とのつながりを感じられる、ちょっと不思議なもの。
 
そこで今回は、異なる視点で
食べる楽しさや奥深さを語ってくれる、
話題のフードエッセイスト、平野紗季子さんに
お話を伺いました。

平野紗季子|フードエッセイスト

1991年福岡県生まれ。
小学生から食日記をつけ続け、
大学在学中に日常の食にまつわる
発見と感動を綴ったブログが話題となり
文筆活動をスタート。
雑誌等で多数連載を持つほか、
菓子ブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」の
ディレクターを務めるなど、
食を中心とした活動は多岐にわたる。
著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
最新作に
『私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。』
(マガジンハウス)。
パーソナリティを務めるpodcast番組
「味な副音声-voice of food-」では
「JAPAN PODCAST AWARDS 2020」大賞受賞。

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ひとりでも独りじゃない、
食べる時間のおもしろさ

ー平野さんは、よく「ごはんはひとりで食べる派」だとおっしゃっていますよね。

そうですね。一人で食べるのは本当に大好きです。

ーそんな平野さんが、食を「人とのつながり」という切り口で捉えた時に、どう考えられていますか?

うーん。つながりと一口に言っても、「誰かと一緒に食卓を囲む」ことだけが、「食で人とつながる」ことじゃないなと思っています。

ー平野さんにとっての「人とつながる」ことって何なんでしょう?
気になります。

歴史学者の藤原辰史先生が、『縁食論』という本の中で、誰かと一緒に食卓を囲む「共食」でもなく、ひとりっきりでごはんを食べる「孤食」でもなく、そのあいだにある「縁食」という食のかたちが定義されていて。

ー縁食。はじめて聞きましたが、おもしろい考え方ですね。

例えば食堂などの開かれた場所で、食べるという目的で集った人々の間に他者とのつながりがゆるやかに生まれていく、というのも縁食のひとつで。たとえひとりでごはんを食べていても、それぞれが「独りじゃない」と思える瞬間を生めるような場が、社会においてどれだけ意義深いものであるか、ということを考えさえられました。

ーひとりでも独りではない、と。

私がごはんを食べる時って、たしかにひとりなんだけれど、店の人と目が合ったり、調理されている様子を観察したりしているから、全然「独り」って感じがしないんですよね。
 
今までは、「私は孤食が大好きだな」と思っていたんですが、実はこれは「縁食」だったんだと気づきました。

ーおもしろい気づきですね。

思わず隣の人に話しかけてしまうこともあるし、話さなくても、同じ空間で誰かが楽しそうに食事しているのを見て「なんか良いなあ」と幸せに浸ったりしています。目が合わなくても、たとえ背中合わせでも、ひとりじゃないと思えるような、そういう食の場がすごく好き。

それだって立派な「食を通した人とのつながり」だし、別に誰かと目的を持って集わなくても、淡い連帯の中に自分を感じられるとき、お腹だけでなく心も満たされますよね。

少し勇気を出して、
自分の宝物をシェアしてみたら
「つながり」が生まれた。

ー平野さんは食日記を公の場で発信するようになったのはなぜなんでしょうか?

最初は、「食」という消えてしまうものの記憶を留めたい、大事にしたいと思って、日記を書き始めました。中学生の頃からインターネット上でも書くようになり、大学時代も続けて書いていたら、たまたま編集者の方に見つけていただいて、雑誌でちょっとしたコラムを書くようになって……というのが経緯です。

ー「誰かに伝えたい、つながりたい」から
インターネットで発信を始められたわけではないんですね。

そうですね。私は「食」というものを、何かの手段にしたくないんです。食について書いたり話したりすることは、人が求めていなくても絶対にやり続けていたと思いますし、「つながるための手段」としてやっているわけではなくって。

ーあくまでも「つながり」は結果として生まれるもの、なんですね。

はい。でも、結果として人とのつながりが生まれることは、とてもうれしいです。自分ができること、しかもやりたいことで人が喜んでくれるって、ものすごく幸せなことですよね。それで誰かと共感しあえたり新しい発見があったり、仲間が増えたりするのは楽しいです。
 
食に関する記憶を自分の中で持ち続ける宝物に留まらせず、みんなに問いかけてみたのは本当に良かったなと思います。少し勇気も必要だったけど、みんなと共有したことで私の人生は確実に豊かになったなって思いますね。

離れている人と同じものを食べて
「おいしいね」を言い合える幸せ

ー少し話は変わりますが、様々な食をご存知の平野さんも
離れている方へ食べものを贈ることはありますか?

よくありますよ。特に季節の味を、贈ることが多いです。
去年の自粛期間、食べ物で四季を感じることがすごくあって。
 
あの時って、まるで宇宙船に乗っていて、自分の時間が止まってしまったような感覚だったんですが、食べ物が巡っていくことで、「自然の時間は動いているんだ」と実感できたんですよね。

ー自然を食から感じられるって素敵です。
平野さんが、今まで人に贈られたものの中で、印象に残っているものはありますか?

京都の「老松(おいまつ)」という京菓子屋さんに、「夏柑糖(なつかんとう)」という初夏限定のゼリーがあるんです。それは去年、人に贈ったし、自分でも取り寄せて食べました。夏柑糖の香りがすると、「夏が来た〜!」って感じます(笑)。
 
一緒に桜を見なくても、一緒に海に行かなくても、同じ季節の巡りを人と分かち合える。離れた場所でも、同じものを食べることで共有できる時間はあるなと思いますね。

ー今年、お母さんに「おいしい時間」を贈るとしたら、
平野さんは何を選ばれますか?

うーん、なんだろう。いろいろあるんですが、ひとつは「按田餃子(あんだぎょうざ)」という餃子屋さんの餃子セットかな。

私も大好きで、いつも冷凍庫に常備しているものなんです。まず、「助けたい包みたい」っていうお店のキャッチフレーズがあるんですけど、それがもう最高ですよね(笑)。

本当に癒されるんです。餃子セットは、「白菜と生姜」や「香菜と胡瓜」など、定番ものからちょっとエスニックな変わり種まで4種類の味がセットになっていて、無化調のナチュラルな味の安心感と、特別なものを食べているワクワク感がどちらも味わえる、そのバランスが本当にすばらしい。作り方も6分間茹でるだけで簡単なので、忙しいお母さんにぴったりだと思います。

ー味のバリエーションも作り方も、忙しい方にはぴったりですね。

お母さんって、人に対してはいろいろしてあげるけど、自分のことは放ったらかし……みたいなところあるじゃないですか。私のお母さんは、そんな感じで。
 
だから、少しでも生活に彩りを与えてくれそうなものを贈りたいですよね。冷凍庫って、放っておいたら、冷やご飯と使いかけの生姜と冷凍食品みたいに、なかなか渋めなラインナップになってくるじゃないですか。でも冷凍庫を開けた時に、パッとうれしくなっちゃうような、そんなものを贈りたい。
 
あ、按田餃子のほかにも、「シンチェリータ」という大好きなジェラート屋さんのアイスクリームも贈りたいな。阿佐ヶ谷にあるお店で、素材の味を凝縮していて本当においしいんです。

ー私もお母さんに贈りたくなりました……。

食の贈りものって、相手の暮らしや仕事によって、選ぶポイントが違いますよね。ひとり暮らしだったらバウムクーヘンのような大きなものは贈ったら困るだろうし、忙しいクリエイターさんだったら、仕事に煮詰まった夜にスッキリ気持ちを切り替えられるようなものが喜ばれるかもしれない。
 
そうやって、贈る相手のことを考えながら、食の喜びをわかちあえたら最高だなって思います。

あれがいいかな?
いや、これがいいかな?―
 
一緒に過ごした日々、
何気ない会話、
しょうもない喧嘩。
埃をかぶっていた思い出の引き出しを
そーっと開ける。
 
お母さんを想い、悩みながら贈りものを選ぶ時間は、
今ここに、自分がいることを
改めて感謝できるきっかけになるのかもしれません。

ami-amiが平野さんに聞いてみた!
うきうき、ゆるゆる、いきいき。
「おいしい時間」の思い出たち。

今回ami-amiでは母の日企画として、3つの時間をテーマにギフトセットを販売。
平野さんには、そのテーマに沿って、食にまつわる思い出をお聞きしてみました。

【うきうき】する時間

何も予定が入っていない日の朝に、「今日は何を食べようかな」とベットの中で考える時間がいちばんうきうきしますね。ランチどこ行こうかな〜、とか。
 
代官山のヒルサイドテラスの中に「KUCHIBUE(クチブエ)」という洋食屋さんがあるんですけど、私、そこのランチが本当に大好きで。店の奥にとっても大きな窓があって、ドアを開けた瞬間に光が燦々(さんさん)と射して、緑がワッと広がるんです。「緑の窓選手権、優勝!」と思わず言いたくなるような。坂田阿希子さんという、本当に美味しいものを作る神様みたいな料理研究家の方が店主なのですが、アッコさんが作るマカロニグラタンが、本当においしい。
 
ちょっと緩めの絶妙な茹で加減のマカロニに、ベシャメルがたっぷり絡まっていて、上にかけられたチーズがサクサクカリカリで。かなり焦がしているんですけど、それをフォークですくって食べて「熱〜」とかひとりで言って。そのあとデザートでプリン食べたりとか……。もう、想像するだけで最高に楽しくってうきうきですね(笑)。

【ゆるゆる】時間

いつも仕事が終わったら、近くの場所で何食べようかなと考えるんですが、それが時間的にできない時もあって。そういう時は、帰りにコンビニに寄ることもあるんです。

私、コンビニの冷凍の鍋焼きうどんが大好きで、昔からすごくお世話になっていて。コンビニの中で、異常においしくありません?(笑) たぶん火を使って調理するから、温かい時間も含めて幸せな気持ちになっていると思うんですけど。

寒い冬の日の仕事終わり、鍋焼きうどんを買って家に帰ってきてグツグツ温めて、見たかったYouTubeを見ながらぼーっと食べる時間はゆるゆるしていますね。

【いきいき】時間

私、ごはんは基本的にひとりで行く派なのですが、絶対にひとりで行きたくないお店があるんですよ。
「レフェルヴェソンス」というフレンチ料理店なのですが、このお店だけは、ひとりで行きたいと思いません。その食卓の向こう側に、大事な人の笑顔や楽しかった会話がセットになって記憶されているんです。そこに行ってごはんを食べると、すごく元気になるし、それがレストランに行く意味なんだなと思います。
 
「レストラン」って、「レストレ(restaurer)」というフランス語が語源となっていて、「回復させる」という意味を持つ言葉なんですよ。私にとってレフェルヴェソンスは、まさに心が回復するお店です。

いつもまた行こうねって言って店を出ますが、その一方で、大切な人たちと、同じ場所でもう一度その席を囲める保証なんてどこにもないじゃないですか。変わらないものはないし、いつもはいつまでもじゃないから。本当に大事な人だったとしても、それが最後になってしまうかもしれない刹那はいつも感じている。

でもだからこそ、今この瞬間に一緒に食事をしている事実に対して乾杯したい。幸福な記憶を、私たちの関係性はとても幸せなものだったんだという実感を、記憶の額縁に入れて飾るためにレストランに行くのかもしれないって思うんです。レストランでそのことを感じられている時の自分は、とてもいきいきしていると思います。

ロケ地:toco.
築100年の古民家を改装したゲストハウス。リビングスペースにはバーを併設しており、ローカルの人も楽しめる宿泊施設となっている。2010年10月オープン。
オフィシャルサイトはこちら

あかしゆか|ライター

1992年生まれ、京都出身、東京在住。
大学時代に本屋で働いた経験から、
文章に関わる仕事がしたいと編集者をめざすように。
 
現在はウェブや紙など媒体を問わず、
編集者・ライターとして活動している。
最近の興味は食と地方。

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田野英知|フォトグラファー

写真家。徳島県生まれ。
日本のとある群島を一つの着想から
撮り記した本「汽水」を
書店・オンラインサイトにて発売中。

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