「遠くに行けるようにはなったけど」

「まだ沈むなーー!」高校時代からの友人・マミが叫びながら車を走らせていた。地元の北海道に帰省してひとしきり遊んだ後、海でも見に行くかとマミの車に乗っていたその時、窓の外に真っ赤な夕暮れの大きな太陽が現れた。日没まであと数分。マミは何にも邪魔されずに夕陽を眺められる場所を目指し爆走していた。結局日没に間に合わず、太陽が沈んだ跡を見つめるだけになってしまったけれど、高校時代を久しぶりに思い出した。そんなに遠くにも行けなかったけれど、身近なところで新しい何かを探していた、あの頃を。



井樫彩|脚本・監督

1996年生まれ、北海道出身。卒業制作『溶ける』で第70回カンヌ国際映画祭正式出品。初長編作『真っ赤な星』で劇場デビュー。その他の作品に『21世紀の女の子』『NO CALL NO LIFE』、ドラマ『復讐の未亡人』など。広告、MVなど媒体問わずに精力的に活動。
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