「帰り道」

父が営む喫茶店でお酒を飲んだ帰り道。家までの数分間。父は自転車でわたしは徒歩。「先に帰っていいよ」と言うわたしに「わかった」と父は言い、スイスイと自転車を漕いでいった。曲がり角を曲がると、父が自転車を止めて待っていた。わたしが追いつくとまたスイスイ進み、少し先でまた止まって待っている。「お母さんとよくやってたんだ、これ」と父は嬉しそうに笑い、わたしはなんだか恥ずかしくて「若いので走ります!」と父の自転車の隣を走った。



井樫彩|脚本・監督

1996年生まれ、北海道出身。卒業制作『溶ける』で第70回カンヌ国際映画祭正式出品。初長編作『真っ赤な星』で劇場デビュー。その他の作品に『21世紀の女の子』『NO CALL NO LIFE』、ドラマ『復讐の未亡人』など。広告、MVなど媒体問わずに精力的に活動。
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