「初夏の梅仕事」

毎年恒例の初夏の楽しみは梅を漬けること。東京の家の近所には、梅の木のあるお宅が何軒もあって、拾いに行かせてもらう。黄色に熟した梅が取っている先からドサ、ドサッと落ちて転がっていく。かわいい梅を追いかけていると、やがて持てないくらい紙袋はずっしりに。帰って下ごしらえをするときや、朝起きて一階へ降りていくとき、梅の良い香りに包まれる。あの瞬間が一番至福なんだよねえ。
梅干しや、梅酒、ジャム、シロップなどにするため、夜黙々と手を動かすのも好きだ。網戸から、虫の音や雨音。確かに手間はかかるけれど、美しいまんまるに一つ一つ穴をあけて瓶に転がしていく作業は落ち着く。
先日、梅をくれた方に愛媛の実家の夏みかんを持っていったら「これね、去年つけた梅シロップ。良かったらどうぞ」と、お返しをくださった。「私は一回凍らせて漬けるのよ。あなたはどう?」「へー、凍らせるんですか!私も試してみます。私はこうしてます・・・」と、梅談義になるのもまた楽しい。夏が過ぎる頃には新しい梅干しが食べられるかな。今年も美味しくできるといいな。



高橋久美子|作家・作詞家・詩人

音楽活動を経て文筆家に。主な著書に、小説集「ぐるり」、エッセイ集「旅を栖とす」「いっぴき」、詩画集「今夜 凶暴だから わたし」など。アーティストへの歌詞提供も多数。
オフィシャルサイト:takahashikumiko.com
Twitter:@kumikon_drum