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【Made in Japanの同志達 対談編】メーカーズシャツ鎌倉株式会社


タビオのこだわりの1つに、“Made in Japan”があります。
わたし達と同じように、“Made in Japan”に誇りを持っている企業は、どんなことを考え、どんな夢を描いているのでしょう?
情熱とこだわりを持った日本の企業に、お話を伺います。

世界中を飛び回る

― 本日はメーカーズシャツ鎌倉の貞末良雄会長をお訪ねし、弊社の越智直正会長と対談していただくことになりました。お二人には“Made in Japan”をテーマに、自由闊達にお話頂ければと思います。

越智 今日は無理を言いましたな。Made in Japanということなら、貞末さんにお願いせなならないだろうというのでね。ほな昨日、たまたまテレビ付けたら貞末さんが出てて(※BS朝日「オトナの社会科見学」)、やっぱり縁があるなあと(笑)。しかしテレビ見してもうてたら、日本全国走り回ってまんの?

貞末 そうですねえ。日本だけじゃなくてニューヨークも行けば、この夏には綿花畑を見に中国の新疆(しんきょう)まで参ります。うちの畑をもらってるんですよ。

越智 綿花はね、今うちでは7町歩ほど植えてます。休耕田を使うてね。おかげで最近では奈良の北葛城郡界隈のあちこちから「うちにも休耕田がある」と言ってきだしましてな、断ってますのやけど(笑)。国産の綿花はどうですか?

言葉では伝承できない技術

貞末 それは良いと思いますが、紡績するところがない。

越智 紡績会社にも、もうええ機械はほとんどおまへんやろ? 靴下もそうなんです。日本の機械メーカーが全部止めてしもたもんでね。

貞末 靴下はイタリー製とかですもんね。金型作るところも奈良に一軒しかないとか。

越智 それも古い部品を使うたりしてやってますのやけど、何しろ部品作るのが僕より年上の人ばかりやもん。もっと恐ろしいのが、後継者がおらんのです。今時、勤めたらようけ月給くれるもん。いつ来るかわからんような仕事をやるような奴はおれしません。

貞末 われわれも縫製工場のミシンの部品は、みんな手作業で作ってるんですよ。縫製の機械もね、大手さんなんか85%くらい中国で売ってて、国内なんて全体の1%くらいしかないから、日本向けに作らない。もう大変ですよ。

越智 機械もそうですし、もう人間がね。この間うちの工場に行ったら、「会長、70歳くらいの若手おりまへんか、うちも困ってまんのや」とね(笑)。技術になったらそうなりますからな。60歳くらいから脂が乗ってきて、実際は80歳近い、歩くのが精一杯なのがやってますのや(笑)。その技術が伝承できんというんでね、難しいですわな。今頃は後継ぎもみんな大学出とるでしょう? 言葉で教えてくれと言いますのや。せやけど言葉でなんか説明できるわけがない。

貞末 大変ですよね。こないだも縫製工場に行ったら、この人の技術を残すというんで、ビデオ撮ってるんですよ。それで分かるなら世話ないです。そりゃね、ゴルフでもプロのビデオ撮ってますけど、誰も真似できないでしょ? 撮らんよりはいいかも知れないけど、でも誰も真似できないですよ。

越智 勘的なところがありますからなあ。

外国にはない、「微妙」

貞末 われわれの工場にも中国の人を呼ぶんですが、日本の現場を見せると速さにびっくりしますね。なんでこんなに速いんだろうと。私が中国に行ってミシン場に行くとね、なんだかスローモーションを見てるみたいな気がします。それで聞いたら、あちらの女工さんは、3年以上勤めないんだそうです。3年同じ所にいる奴は馬鹿だというようなことがあって、次々と移っていく。日本はね、これ一筋で30年とか40年とかって人がいますからね、だから凄い技術が蓄積されている。でもあちらには、そういう人を大切にする仕組みがなかなかないんですね。だのに、今日も新聞に出てましたけど、日本で作られてるのは、流通している全衣料の2.7%くらいだと。シャツなんかもそうですよ。

越智 靴下ももう10%割ったんとちゃうかなあ。結局、靴下業界全体がね、お客さんを馬鹿にしとるんですわ。
僕は靴下を作るのに世界中を走り回りましてん。それで一番びっくりしたのが、外国には「微妙」て単語がないんですわ。

貞末 そういう文化育たないですもんね。日本はもう、微妙ばかし。微妙に違う、とかね。

越智 うちも昔、中国で3足千円用の工場を作りましてん。やけどね、日本人と同じような顔してるくせに考え方が全然違う。微妙なことっていうのはできまへんなあ。

貞末 荒っぽいです。例えば中国の彫刻なんかも、遠くから見るといいんだけど、近くに行って見るとねえ。日本の仏像なんかと全然違います。

越智 うちはもう、それで止めましてん。靴下業界では、この頃中国の代わりにベトナムやインドネシアや、今度はインド行こうかてなとこもありますのや。で、僕は言うんです。「お前らはもう冥途へ行け」ってね(笑)。ろくでもない商品作って、それで値段値段言いまっしゃろ? 値段の安さというのはもう底がないからね。

貞末 そうですね。素材を落とせばなんとでもなりますもんね。

海外での成功の意味

越智 ところでお宅のニューヨーク、ええらしいですな。

貞末 いや良いったって、儲けさせてもらうまではいきませんよ。損をしないくらいです。

越智 うちも最初ニューヨーク行こうと思ってね、大方一年ほど調査しましてん。やけど結局、靴下を下に見るところがありましてな、ならアメリカを見返せるとこへ行こうと言うんで、ロンドンへ行きましてん。今度また、北米の調査をさせようと思うてます。できたらトヨタの「レクサス」みたいに海外でブランド化して、日本に持って帰りたいんでね。

貞末 私なんかが無理してニューヨークに行ってるのも、あそこで成功したっていうのが、世界的に力持つんですね。日本の企業で成功しているところはなかなかありませんが、やり方次第で成功する可能性はありますから。おかげさまでうちは昨年末に出した2店目も、何とかね。

越智 アメリカって広いから、なんぼでも店出すとこあるんちがいますの?

貞末 あちこち出したら、とてもじゃないけど。もう、あとはインターネットです。今83カ国ですか、アメリカに出したおかげで注文が来ます。大した量じゃないですけどね、そこはもう投資要りませんし。

越智 値段なんかどうなりますの?

貞末 日本で5000円の物が79ドル、約8500円くらいですね。ただ、綿製品のシャツの関税が約20%あるんですよ。だから日本と同じ値段では売れないですね。アメリカと日本で売ってる値段に差がありますので、世界中に売る奴はアメリカ基準なんです。

越智 そうなんですか?

貞末 ええ。日本基準では売れないですよ。例えばドイツに売るとなると、あちらの税金は35%位あるんです。これはこちらで持たなきゃいけませんからね、それを考えるとこっちの値段で売ってたんでは。そうなると値段を最初から考えておかなきゃならない。

越智 アメリカの税金はTPPになっても?

貞末 そうです。TPPってのは、紡績と染色、縫製の三つともが日本でないとあかんのです。だから紡績が中国だと「ノー」なんです。

越智 さよか。国内の紡績なら?

貞末 それなら大丈夫でしょう。

物を作る・売るを一体に

越智 いずれにしても、うちは日本で作る。海外から仕入れてるのは3Pのみで、全体の5%くらいかな。あとは全部日本製でやってますのや。しかし高齢化と高学歴ね、これがもの凄く弊害になってまんなあ、今。体で覚えようとせんからね。僕がこれ以上はできないくらいやさしく言うとんのに、むちゃくちゃ怒ってると思うてるんやから(笑)

貞末 なるほど。でもねえ、Made in Japanでやるといわれている会社も、靴下ではもうないんじゃないですか?

越智 僕は特殊な例になりますな。独立した時にね、うちを応援してくれたところは守らないかんと。わしは生産設備はしない。だから一緒にやってくれ、というんでやりましたもんでな、だからそこを守らないけませんねん。

貞末 でも結局、小売業を展開する時は、日本で作ってる方が早いですね。結果的には物流費なんかもかなり助かってんじゃないですか? 海外だとたくさん作ってどこかにストックして、資金ばっかり掛かるわけ。

越智 やっぱMade in Japanが一番早いですわ。うちの生産システムねえ、もの凄う早いんですわ。もう染工場とかね、全部つないでまんねや。速いもんなら2日くらいで上がりますよ。不良在庫持たんでええからね。僕はねえ、15歳の時からやってますけど、一番苦労したのは生産数だったんです。企画するでしょう?企画は楽しいとこもあるんですけど、これどれだけ作る? という時にね、さんざん苦労しました。

貞末 議論してもわかりませんわねえ、いくら作るなんて。

越智 それで情報集めるでしょ? でもねえ、生産数と販売数が一致したことなんて、一度もありませんでしたわ。だがそれをぼろくそに言われてね。売れれば「これだけしか作ってない」「機会損失が起った」言いますねん。残ったら「残品作りやがって」とね。それで辿り着いたんが製販一体だったんです。僕は靴下産業は労働集約型産業やと思ってましたんや。走り回ってたから。ところが貞末さん、本を読みよったらファッション産業とコンピュータ産業と航空機産業が親類なんです。これが知識集約型産業の3大産業ですと。それからね、僕は本気になりましてん。それは要するに物を作るというのんと、売るというのが一体になるというヒントから考えましたんや。予測をせんでもええ方法というのでね、今国内でやってるんです。

ICタグの導入

― 鎌倉シャツさんは、ICタグを導入されてますが、海外物流のオペレーションはどうされているんですか?

貞末 オペレーションは一緒なんです。海外も日本も。売れるスピードと作るスピードを同じにするっちゅうことは、海外に送るから船で、というんでは、生産とバランスが合わなくなるんで。もうみんな飛行機なんですよ。2週間に1回、飛行機で飛ばしてます。

越智 ICタグの値段は、今なんぼぐらいになってますの?

貞末 今10円ぐらいで、タグのデザインやなんだかんだで35円くらい掛かるんですよ。だからタグ自身を簡単な物にすれば、1枚11~12円ですね。

越智 そうでんの。うちももっと使いやすい値段になったらやろうと思ってますのやが。

貞末 それはね、ちょっと時間掛かると思いますよ。今10数円ですが、もういいところまで来てる。これで需要が高まったからと言って、これ以上下がるというのはなかなか難しいんじゃないかなあ。結局、現場で問題が起るたびに技術者がメンテナンスに行ったりする、その費用が結構掛かるんですって。何もかもすべてうまくいくわけじゃあないんですよ。むしろ越智さんとこは、これだけの枚数になるからちょっとこの値段でやらないかという話をされるべきですよ。枚数の桁が違うんですから、下がりますよ。交渉次第です。

越智 そうやろか?

貞末 それでもねえ、値段だけでもありません。うちらで5時間掛かってた棚卸しが、今はまず1時間以内です。それと、商品が入って来た時に、パッキンケースを開いて確認してたのが、外からシュッとやるだけでお仕舞いでしょう? もう店の作業が、全部販売に向けられるんでね。苦労して数えたって、棚卸しで帳簿上と合ったこと一度もないですよ。だけど、帳簿上はどうであれ、ある在庫は絶対間違いない。これはねえ、経理的に言うと絶対です。

越智 そらあそっちの方が大きいかも知れんねえ。

貞末 大きいですよ。だって各店のデータ集めて、これおかしいんじゃないか? 枚数違いすぎるよ、なんて言ったって、もう毎日売りはしてるし調べられないし、結局まあこの辺で決算するか、みたいなことになってるんですよ。ところがこのICタグってやつは確実に、ある在庫は絶対に逃さずに、パッと確定するんですよ。経理にはね、革命的な機械ですよこれ。要するに小売業やって、棚卸しの数字が帳簿上と合うとか合わないとかいう問題が、これ一発でなくなりますよ。
だから今、アメリカでの棚卸しもICタグで、コンピュータとつながるようにしているんですよ。だから何が何枚売れたというのがすぐ分かる。以前なら、この商品テスト販売してるって言ったら、売り場に電話して「どうやどうや」ってやってましたけど、もうそんな必要ないです。それは革命的なものですよ。ただねえ、まだちょっと費用が掛かる。

その商品がええと言う人が増えたら、また広がっていく

越智 今は全品に?

貞末 ハンカチ1枚まで付けてます。例外があったら、これだけは別っていうわけにはいきませんから。そりゃあ作業の革命ですね。工場さんも出荷ミスがないですよ。うちらもね、工場さんが1500枚出荷しましたって言うんだけど、こっちきたら1495枚しかなかった。でもこんなことですったもんだしたってもうどうしようもないですよね。向こうも絶対ってことはよう言わない。でもあれでやるとね、絶対なんですよ。おかげで工場さんの作業も早くなったんですよ。最初はね、こんな機械使ってられんとかグチャグチャ言ってましたけどね、今はもうやめられない。それを考えてみなければ。

越智 なるほどねえ。考えてみなあかんなあ。

貞末 タビオさんほどの枚数があれば、交渉次第で思った値段まで下げられるんじゃないですか? いや、そうさせるんです。得意でしょう?(笑)
でも、ちょっと赤字でもやっていかないと、それくらいでやっていかんと増えない。Made in Japanでもそうですよ。その商品がええと言う人が増えたら、また広がっていくんですよ。中国が日本製が欲しくてしょうがないっちゅうのに、日本人は中国製が欲しいって言ってね、おかしな話ですよ。
今、中国では、安い物を売って大きくなった会社が、安い物はもういらんていう風に中国の人たちが言い出したら、売り上げが10分の1になったとか、みんなガタガタなんですよ。でもそういう会社がいい物を作ろうったってノウハウがない。この間も中国の大きな会社が日本の工場に来たけど、今中国の量を作れる工場がなくて、勘弁して下さいみたいになったようです。

日本から海外、そしてまた日本へ

越智 靴下も一緒です。日本の工場を見捨ててね、海外へ行ってね、で今日本に戻ってきてね、してまっしゃろ? しかし1回裏切ったところはなかなか。よほどのことがない限りはね。

貞末 そうですよ。どの大きなアパレルさんも、日本見限って海外に行ったじゃないですか。今じゃ日本の工場が相手にしないらしいです。知り合いの若い社長さんなんかに、口利いてくれんかと言われますがね、いや口は利くけど、あんたの前の前の時代に、相当にあくどい事してるから、そいつは無理やでと、こういう話になってね。

越智 うちらの工場にも来よるなあ。余力があったら、とね。

貞末 御社の協力工場っていうのは、もう100%御社の物しか作ってない?

越智 中心商品はね。そりゃ貞末さん、15歳の時から付き合うとる人ばっかりやもん。しやからあんたもう、若い人でも80歳でんがな。

貞末 超若手が70歳ですもんね(笑)
会長 貞末さん、これ、わし笑うてるけど、ほんまの話やで。「会長、どこか70歳くらいの若手おりまへんかなあ」って。「もうあれも80歳になりましてんや」と(笑)

Made in Japanであることと、「商品の力」

― そういう意味で、Made in Japanの職人技術を継承するためには何が必要だとお考えですか?

貞末 一番必要なのは、そういう仕事についたら未来があると、思って貰えるかどうかですね。希望がなければ、誰もそこへは行きませんよ。で、今の状況では希望がないわけです。だから越智会長の仰るとおり、私は、工場が思った以上に売って差し上げて、おい、貞末のとことやったら、もっと作っても買って貰えるでと。そう思った時に初めて設備投資もするし、工場もきれいにしてくれる。きれいな制服を着てくれる。トイレもきれい。そういうふうになってくると、じゃあ地元の、こんなきれいな工場に勤めてみようかと。で、自分たちの製品が、噂に聞けばニューヨークでも売られてる? 越智さんとこだったらロンドンでも売ってるんだと、そういう風に伝わっていくと、人が集まり始める。だから、まずごちゃごちゃと理論的な事を言うよりも、まず海外に出て行って、ニューヨークで売ってんだと。あんたんとこの商品ニューヨークで売ってんだと。だから縫ってる方々みんなにニューヨークのこと思って縫って貰ったら、表彰で1年に1回、工場の人にもニューヨークに見学に行けるようにしてあげるとか。そういう風にしてもらうとね、入ってくる人どんどん増えるんじゃないですかと、こういう話してるんですよ。ところがね、工場の社長さんていうはまたこれが古くてね。そういうことをやらないで、人が来ない来ないって。でもそれはあんたんとこがそうしてるんちゃうかと。今、日本人のものづくりに関心が高まってて、見学の希望者も増えてるのに、ちょっとうちの工場のトイレは見せられないなあっていうような工場だと、結局誰も行かないわけですよ。

越智 そりゃそうですわなあ。
いと思う。これを研究してくれと。

貞末 そこは頭切り替えて貰わないと。結局ね、われわれのところに注文してくれないって言うけども、工場さん自体も変わっていかなきゃならん時にきてるんですよね。これは自業自得の部分もあるんですよ。どちらかというと。自分たちが飛躍していくためには、自分たちがどうあらねばならなかったか。取りあえず注文はくれるもんだから、注文貰ったら貰ったで長いことやってきたけど、気が付いたらだんだん注文くれる人がいなくなってきて、どうしたらいいどうしたらいいって、なるんですよ。その時代を読んでないんですよ。そういうところもね、われわれ売る側が少し教育して、で一緒になってやりましょうと。でもなかなかね、トップの意志が変わらないと、変わらないっすよ。

越智 うちは工場が2代目になってるから、ちょっと難しいところもあるわね、今。先代の頃はともかく、今はもう、2代目との格差が大きすぎるのよ。だからわしは、もうええ商品残しておくしかしょうがないと思っとるの。精一杯いい商品残して、こういうもんを作っとったっていう以外、方法がないと思いますわ。口で説明せえったって、できへんでしょう? そやからええものできるだけ残して、死ぬまでにできるだけええ物を作ってよ、残してかないかんてのがね。工場はのう、自分で苦労しようとせんのやから。うちらみたいになったらもう、燕(つばくろ)の子みたいになっとんやもん。口開けて、チャーチャーチャーチャー騒ぐだけでね。そやからうちとしては、ともかくサンプルを残す。これ以外にないと思う。これを研究してくれと。

われわれの方が工場さんに近寄って、啓蒙しなきゃいかん

― ファクトリーブランドに関してはどのようにお考えですか?

貞末 会長ね、福井にね、第一織物というところがあるんですよ。合繊の超高密度織物の世界的な会社でね、輸出8割やってます。欧州の一流ブランドのあちこちに納めてるんですが、日本のアパレルは全然注文くれない。で結局、ヨーロッパにいくら生地売っても、第一織物という名前がどこにも出てこないんで、何年経ったって世界の舞台に出れないんだって言うんですよ。それで、そこの社長が私を訪ねてきたんですよ。こういう生地があるんですよと。じゃあうちとお宅で、お宅の「DICROS(ディクロス)」というブランドネームを付けた商品を作りましょうよと。で、レインコート作ったんですよ。これがブワーっと売れましてね、そしたらそこの工場で、万歳が起ったっていうんです。今までね、どんな有名ブランドに売ろうと工場の人は万歳なんて言わなかったって。それがね。そこが動機付けにもなるんでね、工場さんを前に出すということで、名前を付けてあげるというのも、意味があるかも知れない。
例えば、越智さんとこの工場の2代目さんなんかでもね、自分の会社の名前出してもらってね、あんたんとこだったら、もっとこんなもんできるんじゃないってお客さん言ってんだけど、もうちょっと研究してみない? ってこと言ったらやるかもしれない。

越智 うちの工場の名前出して貰うのは構わんけど、でもうちの場合は、一点の商品ではあっても、全体の中で見たら部品やからね。わしはそれよりも、スマホとか使ってね、直接お客さんの話をさすとかの方がいいように思うんやけど。うちはFacetimeを使うてね、お店に来てもうたお客さんに、いつでも工場の人間と直接話をしてもうて構わん、ということを考えとるんですわ。工場と直接話してもうたら、この商品はこんなですよ、と。この商品は、こんな機械で編んでこう作ってるんですってのが全部見せれられる。で、こんなもの作ってくれって言われたら、それはすぐできます、とか、一週間くらい掛かりますとかね。お客さんに直接要望を伝えて貰うとか、工場のおばちゃんと受け答えするとかいうようなことが、うちならできるとわしゃ思うんやけどなあ。うちの工場、もう皆スタンバイできとるんですわ。

貞末 問題は工場の人が手を取られて、それに何人も人が掛かったりすると、工場の生産性上がらないし、もう勘弁して下さいみたいなことにもなる。また出たがりな奴がいて、あの人ばかり出てこっちは出さして貰えない、ってなことにもなるから、この辺は注意しておいた方がいいかもしれんですね。

越智 まあ、工場はそれがあるか分からんなあ。

貞末 それとね、うちでもテレビ会議するんですが、それだけで済まして、一回も東京に来たことがないとなると、疎外感が起きるんですね。テレビは便利がいいけども、それは私に便利が良いのでね、向こうにしてみれば一日掛けてでも出てきて、仲間同士で湯にでも浸かって、よしやろうって気持ちも起きるわけでね。それがテレビの向こう側にいるだけじゃ、参加している人は面白くないわけですよ。合理的にしなきゃならないんだけど、その中でやる気を失わない方法はなんなんだろうか、どういう仕組みを作っていったら工場の人たちがもっとやる気を持てるのか、考えてあげないとならんですね。
こんなこともありました。年に3回工場の会をやってんですがね、私どもの九州の工場長さんがやだやだ言うてなかなか来ない。でもそれじゃあんたの気持ちが皆に伝わらないし、工場間のコミュニケーションもあるからどうしても来いと呼んだら、なんと25年ぶりに東京に来たと。で、「東京ってこんなに変わってるんですか」って言うんですよ(笑)。もう参っちゃってね。その工場長、わたしらが「こういうシャツを作りたいからこのポケットをRで縫ってくれ」って言うと、「なんでこんな面倒くさい縫い方せないかん」「意味が分からん」て言ってたんですよ。それが東京に来て、あちこちの商品見たらね…。こういう感じなんですよ、工場って言うのは。だからそういう点でもね、われわれの方が工場さんに近寄って、啓蒙しなきゃいかんかなあというのはありますねえ。

組織が大きくなるにつれて

越智 うちの場合、問題は年代の違い過ぎやなあ。なんぼわしが優しう言っても、みな叱られると思ってまんねや。みな子供の時分に、僕が抱っこしたような子らがやっとんだもの。そやから僕がなんぼ優しう言ってもね、叱られたように思うてるのやからね。やはりうちも、次の代が頑張ってやらにゃいかん。わしがなんぼ言うても、やっぱり壁はありまんなあ。親父みたいに思うとんのやから。

貞末 そりゃあ越智会長が偉大すぎるから。なかなか直接物も言えないから、やさしい言葉でも、声掛けられただけでも叱られた、と(笑)

越智 まあ何にしても、うちは過渡期やなあ。何もかもやり直してね。わし今、店も集約せないかんて言うてますのや。それで婦人、紳士、あと複合店も作ってね。こうしてまとめていかなあきまへんのや。今はもう、SCもね、これだけ出しましたらなあ、食い合いになってまんねや。こっちが上がったらこっちが下がったってね。

貞末 アメリカにね、ラルフローレンてブランドがあるでしょう? あれが実はね、アメリカで2000店舗になった時があったんですよ。自分の店が。それも大して大きな店じゃない、30~40坪の店が2000店舗。すると突然自店競合が始まって、業績がドーンと落ちたんですね。それで、サーティワンアイスクリームというところから社長を呼んでね、なんとかせないかんというんで、2000店舗あったのをなんと200店舗にした。その代わりに、200坪とかえらい大きな店にして、それで業績を急改善したっていう話がある。もう有名な話ですよ。だから、アメーバのように売っていくんだけども、相手を駆逐していく時にはそれでいいんだけども、もう自分たちが平らげたら、もう後は拠点でやっていくと。

越智 今、うちがその時かも分からんなあ。

貞末 人もなかなか採用しにくくなってるし、10坪でも20坪でも3人要るというんだったら、小さいところはもう集約した方がいいですね。

越智 人員効率がねえ。

貞末 モチベーションもね。小さな店に人がごちゃごちゃいると、鼻と鼻を突き合わせてんので、色々出てくんですよ。広い店だとそういうこともなくなるし。

越智 うちも家族的な雰囲気ていうのが、順に消えていくものなあ。

貞末 組織も大きくなって、あんまり部門部門で仕事するようになると、なんだか隣の席はもう他人みたいになって、それが怖いですよね。

(2016年4月、東京・広尾のメーカーズシャツ鎌倉・広尾オフィスにて)

貞末 良雄

さだすえ・よしお―1940(昭和15)年、山口県生まれ。
千葉工業大学卒業。ヴァンヂャケットなどを経て、1993(平成5)年に「メーカーズシャツ鎌倉」を創業。1995(平成7)年に法人化。
縫製工場・生地メーカー・副資材メーカーとの直接取引で中間コストを大幅に削減し、高品質な国産シャツを「納得価格」で展開するビジネスモデルを確立。
2012(同24)年にはニューヨークに出店し、海外でも評価を得ている。
日本のアパレル業界における、“Made in Japan”の第一人者。


 

メーカーズシャツ鎌倉株式会社

〒248-0005 神奈川県鎌倉市雪ノ下4-2-15-10
TEL:0467-61-3244 FAX:0467-61-3304
http://www.shirt.co.jp/

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