#わたしのNe
vol.1
小谷実由
「Ne」はルーツ、根っこにある大切なものに
フォーカスをあてるウェブマガジンです。
変化の激しい日々、立ち止まってしまうこともある。
「これからどうしたら良いんだろう?」そんなときには、思い出してみたい。
いつかの私を支えてくれたものは何だったか。いつでもそこへ戻っていくことができる風景はどこにあるのか。
変わりゆく世の中で、私らしさをつくるもの。私の根。私のルーツ。
自分ができることをやり続けようと思った1年半
この1年半、どんなことを考えていましたか?
「当たり前なんてないんだ」ってことを、前にも増して思うようになりました。
それは、どんなふうに?
いつでも会えると思っていた友人には思うように会えず、大好きな 喫茶店も閉店してしまいました。変わらないものなんてない、って知っていたはずなのに。改めて現実を突きつけられた感じがしま した。毎日のように「不要不急」という言葉を聞いているうち、なにをす るにも怖くなってしまったり。
そうですよね。「不要不急」という言葉に戸惑った人は多かったと思います。
自分の仕事についても考え込んでしまいました。「好き」を発信するのが私の仕事だと思ってモデルや執筆など表現活動をしてきたけれど、「それっていらなくない?」って言われてる気がして。もっと直接人の役に立つことをしなきゃいけないんじゃないかって。でも、 私のお仕事やInstagramを見てくださっている方々から「大変なときだけど、見ていると元気になる」って言葉をたくさんいただいたんです。それで、自分が自信を持ってできることをやり続けていけばいいのかもって思い直すことができました。
便利じゃなくていい。ただそこにあるだけで「好き」
先ほどのお話にもありましたが、小谷さんが発信する「好き」には、多くの共感が寄せられていますね。
「好き」の熱量に突き動かされている日々です。極端なんですよ。嫌いなことは全くできないので(笑)。
「好き」の気持ちについて、詳しくお聞きしたいです。
「好きだな」って思ったものを家に連れ帰りたい、集めたいって気持ちが強いんです。だから私の家はものがとても多くて。今の時代に逆行していますよね(笑)。でも、ものの存在自体が好きなので、手触りのあるものを手元に置いておきたいんです。だから本は集めるのも読むのも好きだけど、電子書籍は苦手で。 ものって、誰か一人でもそれを大事に思っている人がいればずっと残るじゃないですか。誰かの「好き」が動機になって存在しているって、ロマンを感じます。
便利だからとか貴重だからって理由ではなく、誰かの「好き」がものを存在させている……
そうです。たとえば私はアクリルの櫛をたくさん集めていて、もう50本くらいあるんですが、その櫛は使うために集めているわけじゃないんです。集めた櫛をときどき取り出して並べて楽しんでいるだけなんです。「こんなにある!」「この並べ方かわいい!」って、思う存分眺めて写真を撮ったら仕舞う。
確かに「好き」の熱量がすごい(笑)
小さい頃からそうでした。自分にしかわからない「好き」という感覚を味わうだけで満足で。一人っ子だったから自然と一人で完結する楽しみ方を学んだのかもしれないですね。だから、私の「好き」は誰かにわかってもらえなくてもいいんです。そうは言っても、やっぱり気持ちを分かち合えたときはすごく嬉しいですけどね。
本日お邪魔しているカセットテープ専門店・waltzさんに通うきっかけも、「好き」という気持ちに導かれて?
そうですね。最初はレコードを買うためにお店を訪ねたんですけど、そこでカセットと出会いました。CDやレコードとは違う、コンパクトで縦長なジャケットがかわいくて。カセットの、ものとしてのかわいさにまず惹かれました。waltzさんのInstagramを見てみてほしいんですけど、フィードがカセットテープ図鑑みたいでかわいいんです。それぞれのポストには店主の角田さんが書いたテキストが添えてあって、これがまた読みものとして素晴らしくって!「好き」が溢れてるんですよ!このテキストを読んでカセットを買いにくることもあります。
みんなにもあるはず。「好き」をめぐる旅の記憶
waltzさんもまさにそうですが、誰かの「好き」に触れると、その人らしさをより深く感じることができますよね。
そうなんです!だから誰かの好きなものについて話を聞くのもすごく好きです。「なんでそれが好きなの?」「どうやって好きになったの?」って。 私、おばあちゃんが若い頃に着ていた服を譲ってもらってよく着ているんです。「こんな古いもの着るの?」っておばあちゃんは首をかしげるんだけど、でもきっと何かしらの思い入れがあるから捨てずに置いてあるんですよね。そういう誰かの思いを直接受け取ることができるのも、ものの良いところだと思います。私にとっては古着もそういうもののひとつです。
ちなみに、装いという繋がりで言えば、今回はTabioの無地靴下を身に着けて撮影いただきました。小谷さんが好きな靴下はありますか?
ラメソックスが好きでたくさん集めています!年に2回くらいまとめて10足は買うんです。
10足も!ラメの靴下は、アクセントになりますよね。
私はスカートよりもパンツを履くことが多いので、アクセントになるようなラメソックスを履いていても隠れて見えないときもあるんです。でもそれで良くって。自分だけがこっそり楽しむのも好きなので。「怒られてるけど、私いまラメソックス履いてるし!」って思ってみたりとか(笑)。お守りみたいなものです。
靴下はお守り、っていいですね。
そういう、自分のなかで静かに盛り上がれるものですね。私にとっての靴下って。電車で座席に腰を下ろしたとき、自分の足元にちらっとのぞいたラメソックスに「うわ!かわいい!」って一人でいつも盛り上がっています。
誰かの「好き」と、私だけの「好き」
今までのお話を聞いていると、誰かが大事にしてきたものを、他の誰かがまた大事にする。「好き」の連鎖、が起こっているなと感じました。
「好き」には歴史がありますよね。たとえば私が喫茶店を好きなのにも、もとになった「好き」のルーツがあるんです。うちは両親がどちらとも音楽が好きで、小さい頃から家にはCDがたくさんありました。ある日、突然CDのアートワークが気になるようになったんです。写真に写っている衣装やインテリアがかわいいって思えてきて。「こういうものってどこで見られるの?」って親に尋ねると、その時代の映画を勧めてくれました。映画を観ていると、セットのインテリアや俳優さんのメイクが気になって、それらを追っているうちに写真や映画、当時の音楽が好きになっていって。そういう世界観を味わえる場所として喫茶店にたどり着いたんです。
まるで「好き」をめぐる旅みたいですね!
みんなにもきっとそれぞれの「好き」のルーツがあると思いますよ。それを聞かせてほしいですよね。だってそれは、その人にしか起きないことだから。「好き」を大事にしてほしいですね。
最後に。小谷さんにとっての「根」ってなんでしょう?
好きなものがあること。好きの熱量です。
小谷 実由|モデル
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、
モデル業や執筆業で活躍。
一方で、様々な作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。
昭和と純喫茶をこよなく愛する。
愛称はおみゆ。