「楽しい」ばかりではいられないけど、
でもその困難の先にあるのはやっぱり
「楽しい」という気持ちだと思うので。

#わたしのNe

vol.4

yurinasia

「Ne」はルーツ、根っこにある大切なものに
フォーカスをあてるウェブマガジンです。

変化の激しい日々、立ち止まってしまうこともある。
「これからどうしたら良いんだろう?」そんなときには、思い出してみたい。
いつかの私を支えてくれたものは何だったか。いつでもそこへ戻っていくことができる風景はどこにあるのか。
変わりゆく世の中で、私らしさをつくるもの。私の根。私のルーツ。

主宰するダンススクール「jABBKLAB」の生徒たちとともに発信する洗練されたダンス動画が注目を集めて以降、ミュージックビデオ・CMへの出演や振付など、様々な場所で活躍するダンサー・振付師yurinasiaさん。彼女のNe(根)=ルーツを辿ります。


ある日、目を奪われた1本のダンス動画。
画面の奥からじっとこちらを見つめる女性。
やがて彼女の身体は音楽のなかを泳ぎはじめる。
ジャンルを越境する唯一無二の表現は、福岡の、ある町の公民館で生まれている。
「私はここで続けていく」そう決めたひとりのダンサーの軌跡を訪ねます。

「私は私だ」と、わかった日

15歳のときにダンスを始められたそうですね。どんな出会いだったのか、お聞きしても良いですか?

私は小さなころから音楽に囲まれて育ちました。あまり裕福ではなかったけど、両親は音楽の環境だけは質の良いものを与えてくれていました。家はボロボロなのに大きくて上質なスピーカーが置いてあったり、ピアノをしたいといえば頑張って習わせてくれました。幼いころはそのありがたさに気付いていなかったのですが、ダンスを始めたときに一瞬で理解しました。両親が与えていてくれたものの大きさを。

自分の身体を音にのせて動かすということを知ったとき、幼いころ聴かせてもらった音楽の記憶がぐわっと蘇って、唐突に思ったんです。「私は私だ」って。今までの全部が結びついて、他の誰でもない「私」自身でいられると感じたんです。

それまでは、あまり「自分であること」に自信がなかったということですか?

そうですね。まだ10代の子どもだったけど、学校の生活や友だちとの付き合いにしんどさを感じていました。自分をうっすら偽っているみたいな感じがして。でも、ダンスならいつでもどこでも、すんなり「あ、これが自分なんだ」という感覚に入っていけました。なので、ダンスと出会ってからずいぶん気持ちが楽になりましたよ。

今ではダンスはお仕事でもありますが、日常のなかで踊ることはありますか?

踊りますよ。振りを考えるときも、夕食の準備をしながら、ふと湧いてきたものをその場で踊ってみて「あ、これいいな」っていう感じで決めていきます。むしろ「さあ考えるぞ!」って構えてしまうと全然思いつかないので。

yurinasiaさんにとって素の自分を表現するのがダンスなのだから、オンオフがないのは自然なことなのかもしれないですね。

父からはオンオフはあった方が良い、って言われるんですけどね(笑)。でも、たしかに踊っているときの方が自分を表現できている気はします。言葉で話すよりも。

個性って、そんなに大袈裟なものじゃない

今の時代、SNSを通していろんな才能や個性に出会うことができます。それらを目の前にして自分らしさってなんだろう?と悩む人も多いのではないかと思います。yurinasiaさんが思う個性、自分らしさってどんなものでしょうか?

個性ってなにも特別なものではなくて、誰にでもあると思っているんです。生徒にも「自分の個性ってなんだろう?」って悩んで相談してくる子がいるけれど、それが芽吹く瞬間って本当にちょっとした変化だなと感じています。

たとえばどんなふうに?

とても綺麗な長い髪の生徒がいるのですが、ある日「髪を切ってみようかな」って相談してきたんです。髪をバッサリ切ることで自分らしさを見出そうとしたのかもしれないんですけど、私からみれば彼女の長い髪はとても魅力的だった。なので止めたんです。そのかわり「姫カットにしてみたら?」って提案しました。彼女はその日のうちに姫カットにしてきたのですが、それをきっかけにガラッと変わりました。性格や、写真の撮られ方、SNSでの見せ方とか。自分の魅力をストンと理解できたんじゃないかなと思います。

yurinasiaさんたちの動画はその日のレッスンで練習した内容が反映されているんですよね。とてもお洒落な雰囲気ですが、ファッションもダンスの重要な見せ方のひとつなんでしょうか?

とても大事です。服は、使用する楽曲にあわせて選んでいます。楽曲をイメージしながら、シルエットやアクセントになる色味を決めたり。Tシャツ1枚とっても、丈感や横幅の余り方とか、立ったときの感じとか袖の長さまでこだわるので、いつもかなり難航します(笑)。

靴下もこだりますか?

めちゃくちゃこだわります!実は私も生徒も、ダンスのときはくるぶし靴下を履かないんです。それは、裾と靴のあいだにちらっと靴下の色が見えるほうが絶対にかわいいから。衣装の打ち合わせでも、どの靴下を履くかまで話し合います。いつか自分でオリジナルの靴下を作りたいなって思っているくらいこだわりは強いですね。

「好き」の、その先へ

ダンスを辞めたいなって思うことはありましたか?

そんなふうに感じてしまいそうなときは、あえて踊るのをやめるようにしてきました。ダンスは仕事だけど好きなことだから。「好き」を失いたくないんです。でも、スパッとやめていると、そのうちまた踊りたくなるんですよ。その瞬間がくるのを待っている感じ。

やめている間はなにをしているのですか?

好きな映像を見たり、いつもと違うことをして、自分の踊りたくなる気持ちを溜めるんです。私の場合は、服を買いにいくのが効果的です。新しい服を纏うと、思わず踊りたくなってしまうので。こうやってスランプから抜け出すスイッチを自分で把握しておくことが大事だなと思います。

自分をよく知っておくことが大事なんですね。とはいえ、お仕事としてもダンスをされている以上、ときには優劣を競い合う場面もある。そんなとき、好きなものを好きなままでいるのって難しくないでしょうか?

難しいです。でも、常に自分らしくあるためには、進化しつづけることが必要ですから。「楽しい」ばかりではいられないけど、でもその困難の先にあるのはやっぱり「楽しい」という気持ちだと思うので。

続けていくことは難しいけど、とても大事ですよね。yurinasiaさんは海外経験もおありですが、今は地元である福岡県水巻町で活動し続けておられます。ダンス動画も水巻町の公民館で撮影されていますよね。なぜ、この地でダンスをするのか、お聞きしたいです。

単に息がしやすいからここにいます。以前NYに行ったときは、いろんな先輩から「行ったほうがいいよ」って言われて「じゃあ行ってやるよ!」っていう感じで行ったんですよ。そしたら、すごく息がしづらかった(笑)。地元に早く帰りたいって思いました。

でもNYに行ったおかげで「地元でいいや」ではなく「地元がいい」んだってことに気づくことができました。今ではここでたくさんの繋がりができたし、街の人たちも応援してくれているからますます地元が大好きになっています。

やっぱりNYが本場でしょ!とか、海外行かなきゃ!みたいなイメージは強いけど、すべての人にとってそれがベストだとは限らない。そうじゃない道もあるんだよって示してくれる人がいるのは心強いことだと思います。

そうですね。どこでやるかよりも、どこにいても続けることの方が大事だと思っています。NYで挑戦したい人はNYで続けていけば良いし、私はここ地元で続けていくってだけのこと。やり続けた人こそが、きっと輝く人だと思います。

なにごとも愛をもって

今後の展望はありますか?

やりたいことはたくさんありますよ。まずは生徒たちの活躍の場をもっと作ること。すごく魅力的な子たちがたくさんいるんです。彼らを埋もれたままにはしたくない。私が有名になることで、生徒たちがスポットライトを浴びる機会が増えれば良いなと思っています。

ほかにも、服のプロデュースもしてみたいし、アートワークの仕事も好きなので音楽のジャケット制作もしてみたい。それから、夫と一緒に地元にダンススポットを作ることも大きな目標です。

同じくダンサーである夫のayumuguguさんは動画の撮影も担当されているんですよね。お二人でダンススタジオを経営するということですか?

スタジオを経営……なんて言ってしまうと堅苦しいですが。もっとラフで自由な場所をイメージしています。どんなふうに過ごしても良いんだけど、その中心にダンススタジオがあるような。学校帰りにふらっと寄って、宿題をしても良いし、コーヒーを飲んでも良い。撮影スタジオも併設してあったりして……。いろいろな人の居場所になれると良いなって思っているんです。

素敵ですね。ダンスを媒介にして、いろいろな出会いやクリエイティブが生まれる場所。

「ダンサーであり、クリエイターでいよう」っていうことは生徒にも言っています。もちろんダンスという軸は大事だけど、それ以外にも自分を表現するツールはいくつ持っていても良いと思うんです。その方が仕事の幅も広がるし。そのきっかけを作るような場所にもなればって思っています。

本日の撮影場所「あまねや」さんも、いろいろな目的を持った人が交わる場所ですよね。

そうなんです!あまねやさんとは、緊急事態宣言中に公民館が使えなくなったときに助けてもらったことでご縁ができました。ご夫婦で営んでおられる場所で、鯛焼き屋さんかと思えば、本屋でもあるし、ワークショップも開いているし、私たちみたいなダンサーもいれば地元のお母さんたちが集まっていたり……地域全体を盛り上げる場所ですよね。ここは私の地元・水巻の隣町なんですけど、あまねやのご夫婦のように私たちも水巻を盛り上げたいねって夫と話しています。

では最後に。yurinasiaさんの「根」はなんですか?

愛をもって、なにごとも。人に対しても、ものをつくることに対しても。いつだってそれを絶やさないようにしたいと思っています。

yurinasiaさんの言葉には、いつも愛が感じられます。ダンスに対しても、クリエイティブに対しても、地元に対しても、そして生徒さんに対しても。

愛があるから、こだわりを持ち続けられるんだと思います。でも見返りは求めていません。生徒たちにもそうです。私には返さなくて良いから、いつかあなたが生徒を持つ日がきたら、その子たちに愛をもって接してあげてほしいと思っています。そうすれば、愛が広がっていくし、すべてが豊かになっていく。ちょっとクサいですけどね(笑)。でも、本音です。愛をもって、なにごとも。

着用商品

2014年の発売当初から大人気、今や靴下屋のルーズソックスの代名詞といえるアイテムです。リブ部分は、ストレスなく履けるよう編み地をゆるめに、かつ一日履いてもずれ落ちないように絶妙なフィット感に調整しています。素材や見た目、価格においても、これからも変えることなく守り続けていく。編み手の職人から「継続は力なり」という言葉をいただきました。

1×1リブベタソックス

Color:11 グレー

¥770

yurinasia|ダンサー

福岡県在住のダンサー・ダンスインストラクター・コレオグラファー。
夫でブレイクダンサーのayumuguguと共にダンススクールjABBKLABを運営。毎週末、SNSに投稿されるスクールの動画が話題を呼び、国内外で話題となる。
現在、TV・MV・CMの出演や振り付け、全国各地でのワークショップなど活動の幅を広げている。

photo:野本敬大、writer:小島杏子、edit:金井塚悠生