case.4 『独自性を貫く』
岡橋繊維

奈良県広陵町、1963年設立の岡橋繊維。
タビオグループの中でも、レースのような靴下を編む特殊機を主力にオンリーワンの商品を追求するニッター。そんな岡橋繊維の岡橋専務にものづくりのこだわりを伺いました。

タビオとの出会い

岡橋さんといえば靴下屋の定番商品「イルマックロークルー」
レースのような穴開き柄がすぐ始めに浮かびます。

タビオと取引が始まったきっかけも特殊な穴開き柄でしたね。今から30年ほど前、私も当時まだ高校生の頃でした。
うちは父親が初代で私が二代目のニッターです。タビオと取引する前は北海道から沖縄まで全国各地の靴下問屋に商品を卸していました。その頃に越智会長がうちの商品を店頭で見て、どうやってか製造先を辿ってきて訪ねて来られたことからタビオと取引が始まりました。

取引が始まる経緯のエピソードは私も知らなかったです。きっかけもレース柄だったのですね。

今なら製造元を辿るのは中々難しいかもしれないですが、当時はそういう時代だったんでしょうね(笑)
ありがたいことに、それからタビオさんとの取引が始まって今でも穴開き柄を主力にやってこれています。取引当初の商品と今の商品では機械の構造こそ違うので異なる商品ですが、どちらも特殊な機械でつくる商品なのは変わらないかなと思っています。

創業者であり、靴下職人一筋の父から学んだこと

岡橋さんのもう一つの主力機種も独自性が出ています。

これはミドルゲージの最新のイタリア製の機械で、ちょっと特殊なことが出来る機械です。例えばこの商品は一見普通のチェック柄だけど、ゴム口がリブ編みになっています。折り返しのデザインだけどチェックと折り返しのところに違和感がない商品に仕上がりました。
去年に新しく導入したてで、まだ他にもどんなことが出来るのか可能性を探りながらですけどね。
まだ他社さんでもあまり導入されていない機種のようだから、もっともっと研究して良い商品が出来ればと思っています。

岡橋さんの特殊機へのこだわりを感じます。

父がやっていた時から、特殊な機種を入れて、技術を積んで生き残るというのがうちの考え方ですね。うちは決してビッグカンパニーではないから、居場所を探すじゃないけど、規模が大きくないからその分小回りが効いた独自性を出すことを強みにしたい、と常々考えています。
でも決して特殊機で特殊な商品だから売れるとは思っていません。もしうちの商品をお客様が良いなと思ってもらえたとしても、たまたま特殊な機種や特殊な編み方だっただけのことだと思うから。
だからよそにはない機種や商品だから安泰、ではもちろんないし、より良い商品に向けて技術は磨いていかないとといつも思いますね。

でも、あまり出回っていない機械だから、トラブルやわからないことが出てきても聞く人もなかなか居ないし、大変なこともありますね。クセも強い機種だからね。これは日々機械と向き合って、勉強ですね。

岡橋さんから見るタビオとは、どんな集団に映りますか?

一つ一つの商品全てが、厳選された商品のみが店頭に並んでいますね。問屋では仕入れた商品を右から左に流して流通することも少なからずあると思いますが、タビオに関しては企画段階から一緒に取り組むしチェックも厳しい。だから時に自信がなくなるときもあります。

自信をなくす、ですか?

毎シーズンが始まる3か月ほど前に行われるタビオの内見会や店長会で、他社さんの商品と並んでるうちの商品を見るときはいつも怖いですね。
もちろんつくるときは良かれと思って、自信を持ってつくっているつもりですが、他社さんと並んだうちの商品を見るとその時はアラばかりが気になります。もう少し見かけの幅を出した方が良いとか、ここのつくりをこう変えた方が良いのではないかとか。そういう時は本生産が始まる前にすぐ修正します。だからそういう機会があることはすごく刺激になりますね。いつも発見の連続です。
実は父の代での話ですが、うちは1990年代に一時事業を休止していたタイミングがありました。また縁あって靴下業を再開したのですが、再開一発目の内見会で父は一度会場に並べた商品を全部引き上げて帰ってきたことがあります。今となっては父の気持ちがすごく分かりますね。

「たまたま変わったつくりをしていた」

岡橋さんが目指しているものづくりの考えを教えてください。

見た目と着用感のバランスですね。どっちも大事だし、どちらかが欠けたらそれはタビオ基準からも外れてしまうと思います。

―(途中から同席頂いていた岡橋社長)

「靴下というのは、『見てよし、履いてよし』冬は暖かく、夏は気持ちよく、という考え方ですね。商品を気に入ってもらって、こんな感想をもらえるようにつくるのが第一。儲かった儲からないは二の次と思ってますねん。
自分のところに味があったら、実際に買ってもらうお客さんにも、商品を取り扱ってくれるタビオにも目にかけてもらえると思いますから。だから私らは技術を磨くだけ。専務もさっき言ったみたいに、うちは小規模で休業もしていた時期があるから後発のつもりで、タビオグループの他のニッターさんの邪魔にならないように独自性のところを狙って、技術を磨いていきたいと思っています」

最後に岡橋繊維さんの夢を聞かせてください。

今市場にないものをもっと研究して出していきたいです。
いつまでも常に新しいことにチャレンジし続けたいですね。素材や編み機も含めて、靴下づくりの研究を続けていきたいです。でもさっき話したみたいに、「変わったことをしているから良い商品」っていうことではなくて、「良い商品がたまたま変わったことをしているつくり方だった」という結果論だと思うので、そういう「良い商品」を研究し続けたいです。その方が、うちの規模や考え方にもあっていると思うしね。
父が現役でやっていた頃から、岡橋繊維はその考え方でやってきたと思っています。もちろん、まだまだこれからも勉強だけどね。

あとがき

タビオグループのニッターの中でも、特殊機と技術を武器に独自性のある靴下を生産する岡橋繊維。創業者である社長は、その道60年の熟練の職人だ。今は二代目である専務に機械と経営を任せてもなお、「靴下に触れていたいから」と工場で検品業務を手伝われている。
「靴下と一緒に大きくなったようなもの。愛着はとてもあるよ」と話されていたその顔が、とても印象に残った。

文章・写真:畑中 絢哉
靴下ソムリエ認証番号 第17006)

服飾関係の学校を卒業後、タビオ株式会社に入社。Tabioブランドの商品MD、靴下屋ブランド商品MDを経て得た、靴下の知識やものづくりのこだわりをより多くのお客様に伝えるため、現在ウェブサイトの商品説明やコンテンツ制作を中心に日々情報を発信しています。