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case1. 『挑戦の日常』
関屋莫大小株式会社
奈良県香芝市にある、1953年創業の関屋莫大小(セキヤメリヤス)株式会社。
今では日本でも珍しい、ダブルシリンダー100%の靴下工場。レディースのカジュアルな商品が主力のニッター。そんな関屋莫大小の髙垣専務にものづくりのこだわりを伺いました。
商品づくりは、糸選びからはじまる
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―関屋莫大小さんが商品づくりをされる際は何から行いますか?
デザイナーや企画担当者から、作りたい商品のイメージを聞いたらまず素材選びに取り掛かります。一言に「靴下用の糸」と言っても、
その種類は世の中に値段も品質もピンからキリまで無限にあるからね。
その中で、例えば「カジュアルに履ける綿の靴下」だったら選択肢は綿100%だけではなく、気軽に普段履き出来るように強度や繰り返し洗濯される事を念頭に、アクリルとの混紡素材を試したり、場合によっては紡績メーカーに特注で糸を開発するところから始めることもあります。
―糸を開発するところからですか。
靴下は小さな製品だけど、見た目の綺麗さや可愛さと、
履き心地や耐久性の両方が求められます。
発色を綺麗に見せるだけとか、履き心地は良いけど耐久性に欠けるでは通用しないと思うので、全てのバランスを考えながら素材選びをしていきますね。
定番商品も、時代に合わせて
アップグレードを繰り返す
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ー定番商品も、数年ごとにリニューアルを行われてますが、その理由は?
例えば2×2リブはタビオ創業以来ずっと扱っている商品ですが、
2018年春にリニューアルを行いました。
綿は天然物なので、その時々の気候や環境によって品質が変わったり、
糸値や他のコストも勿論変動します。
また靴下は「ファッション」の要素もあるので、その時代にあった丈のちょっとした
変化であったり、色味であったりを加味しながら数年に一回ごと
リニューアルを行なっています。
ー今回のリニューアルは、前と比べると?
綿素材を、以前のスーピマ綿から別の綿に変更しています。
よりふっくらした触り心地と、カジュアル感がでる「リブ感」をイメージし選定をしました。
どちらもグレードの高い高級綿ですが、
綿の産地が変わると持っている特性も変わってくるので、
その綿に合わせたアクリルであったり、機械の調整であったり、
見かけは同じだけど商品づくりはゼロベースから作り直しました。
この商品に限らず、全ての商品でその靴下の主原料となる「表糸」、履き心地を決める「裏糸」、
風合いや見た目に影響が出る仕上げ工程など、
その靴下それぞれにベストな組み合わせを何度も試作を繰り返しながらものづくりをしています。
「見てよし、履いてよし」が良い靴下
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ー「風合い」という表現を、専務はどう捉えておられますか?
言葉にするのは難しいよね。商品を見た時のイメージや、
触った時の肌に感じる感覚だから。
でもあえて言うなら、選定した糸の雰囲気をしっかり表現できている事と、
見た目に合う触り心地かな。
例えばウールを使った靴下で見た目は暖かそうでも、
履いてガシガシしてるとガッカリするでしょ?
多くは主素材となる表糸で決まる部分もあるけど、
他の要素で編み方を優しくしてあげるとか、
蒸気の圧力を調整するとか、微妙な調整で大きく変わることもあるから。
履いている時に、「履いていること」を感じさせる靴下ってストレスになると思う。
ズレてくるとか、ゴム口がキツいとか。一回気になると、一日中気になっちゃうもんね。
見た目も可愛くて、履き心地も勿論良い、そんな「見てよし、履いてよし」が
良い靴下だと思うから、僕たちはそれを常に目指しています。
「ダブル」は出来るものは
限られるが、確かなものができる
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ー冒頭にもお話がありましたが、関屋莫大小さんの保有機種は特殊ですね。
ウチは、ダブルシリンダーと呼ばれる機械のみを扱っています。
靴下編み機には、シングルシリンダーとダブルシリンダーと呼ばれるものがありますが、
この説明は長くなるので置いときます。(笑)
平たく言うと、より素材感や履き心地を追求出来るのが
ダブルシリンダーの特徴と僕は思っています。
現在の靴下業界はシングルシリンダーの方が主流で、シングルの方が色んな柄が出来たり、
生産効率も良かったりするのですが
僕たちが思う「靴下」らしいカジュアルな雰囲気や素材の良さをより出すために、
「ダブルシリンダー」と呼ばれる機械にこだわっています。
シングルと比べて、機械の調整が難しかったり、生産効率が悪かったり、
繊細な柄が出しにくいといったところもありますが、
ダブルにしか出来ない商品や履き心地を追求するのが、ウチのスタイルとなっています。
すべては履き心地のために
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ー私は男性で、足のサイズが26センチですが関屋さんの2×2リブ(レディースの商品)は、履くことができます。
よく伸び縮みしてくれるでしょ。そういう風につくってある(笑)。
婦人物として展開しているけど、僕も普段から履いていますよ。
この商品に限らず、ウチは基本的に大きくつくって
小さく(適正サイズに)縮めるつくり方をすることが多いです。
本来なら使わないような糸を使ったり、
編み立てが終わった生地を一度洗い加工を入れたりしてね。
他社では今でもやってるところも少なくなってきたんじゃないかな。
でもそういうつくり方の靴下は、よく伸びてくれてよく縮んでくれる。
だから独特のフィット感が表現できる。
ー高い技術力をお持ちだから出来る技ですね。
難しいよ!(笑)、実際不良が出て検品でハネる数も多くなるし。管理も大変になってくるしね。
だけど、履いて「良いな」と思える履き心地が出せる。
手間は掛かるけど、履いてもらえる人にそれを感じてもらえたら幸せだし、
それは苦じゃないですね。
関屋莫大小とは、『挑戦の日常』
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ー髙垣専務の「ものづくりの考え方」を教えてください。
「日常」かな。営業日も、休みの時もずっと「靴下のこと」を考えています。
僕はこの家に生まれて、三代目で、小さな時からずっと靴下が身近な存在だった。
それこそ、小学生くらいから手伝いをしていたし、
僕にとってものづくりは身近で当たり前のこと。
でも今までやってきたことを守るだけではダメだし、
企画でも何でも新しいものを取り入れながら
時代に合うものにアップグレードしていくことが大切だと思っています。
そんなに意識せずやってきたけど、振り返ると無意識のうちにやっていることかな。
タビオはワガママな会社(笑)
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ー関屋莫大小さんから見るタビオの特徴とは?
ウチはタビオしか取引していないから、一概には言えないけど、
とにかく何事にも手を抜かないね。
特にものづくりは、「こういうものを作りたい」の意志がハッキリあるし、
それに行きつくためには妥協は一切しない。
だから私たちニッターも気が抜けないし、タビオが言ってくる以上のものを、
より良いものをつくりたいと思っています。
効率だけを考えると、生産数をあげる方法はいくらでもあるけど、
品質を落としてまでそれをする事は決してない。
もしかしたら時代錯誤なのかもしれないけど(笑)
あと「靴下屋」「Tabio」「TabioMEN」といった自前の店舗を持っているから、
世に出した商品の評判をすぐヒアリング出来るのでありがたいです。
靴下業界は編み立てや後工程で分業されている業界だけど、
ウチは全部の工程を自社で出来るようにしています。
だからウチでは店頭でこんな意見が出たとか、レッグアイテムでこんなトレンドが出そうという声をいち早く反映出来るし、それが自社の強みの一つかなと思っています。
勿論、各工程の改善やフィードバックも直ぐに行えるので
自分たちが思うものづくりに大いに活かせています。
でも長年、タビオとずっと一緒にやっているから、
僕たちの中ではそれが当たり前になっていますね。
「自分の子供を入れたい」と
働いている方々が思える会社を作ることが夢
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ー最後に髙垣専務の夢を教えてください。
この業界で生き残って、後世に残るような技術や、僕が引退するくらいの30年後も安心して働ける会社でありたいね。もちろんその先も。
今働いてくれている方々が、「自分の子供を関屋莫大小に入社させたい」と思ってもらえるような会社を作ることが僕の最大の夢。
働いている方々の生活を守りたいし、その為に生き残る武器として技術力であったり機動力をもっと深めていきたいです。
あとがき
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関屋莫大小さんを訪れる度、いつも会社の雰囲気の良さを感じ取れる。
取材途中に、髙垣社長(二代目)がフラッと部屋に入って来られたが、
「毎度!」といつものフランクな挨拶で、
ニコニコしながら我々のインタビューをご覧になられていた。
専務曰く、関屋莫大小の風土は社長が長年かけてつくってきたものだそうだ。
この会社の雰囲気の良さが、新たな挑戦や工場全体の機動力に繋がっているのだろう。
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文章・写真:畑中 絢哉
(靴下ソムリエ認定番号 第17006)
服飾関係の学校を卒業後、タビオ株式会社に入社。Tabioブランドの商品MD、靴下屋ブランド商品MDを経て得た、靴下の知識やものづくりのこだわりをより多くのお客様に伝えるため、現在ウェブサイトの商品説明やコンテンツ制作を中心に日々情報を発信しています。