case3.『不易流行』ハッピープロダクツ株式会社

case3. 『不易流行』
ハッピロダクツ株式会社

奈良県香芝市、1950年創業のハッピープロダクツ株式会社。
「靴下屋」ベストセラーの定番商品、コットンブレンド無地をはじめ、レディース靴下のミドルゲージとハイゲージを中心に扱うニッター。そんなハッピープロダクツの三岡社長にものづくりのこだわりを伺いました。

リブ機でベタをつくる理由

服飾ジャーナリスト山本晃弘コラム「いいソックスは、ていねいに作られている」

ー定番商品、「コットンブレンド無地(店頭名:ベタクルー)」をつくられているダブルシリンダーの編み機は、本来凹凸のある生地感を出すのに特化した機械だと認識しています。あえてこの機械で凹凸のない「ベタ」を作る理由は?

生地が安定するんですよね。
生産性を考えると他の機種の方が効率が良いのですが、いまこの靴下をつくっている機械は「巻き取り装置」という生地を下から引っ張りながら編む構造になっています。この機械でつくると、靴下が繋がった生地で編まれるのでそれを1足1足切り離す工程が必要だったり、手間はかかるのですが、巻き取り装置のおかげで適度のテンションが掛かるから綺麗な編み目になってくれます。昔の機械だから、最新機と比べて回転数もゆっくりだけど、ゆっくり編み立てているから編み目が綺麗でふっくらした生地が出せますね。

長年の「靴下屋」の定番商品として

ーこれは他所には負けないところは?

20年以上、同じ商品をずっと定番として品質と価格を守り続けて来られたことは自信になっていますね。長年つくり続けて、長期間の品切れが起きないように安定してお店へ供給し続けていること。「靴下屋」のお店で、どこのお店でも置いてもらっている定番商品になってくれているから、品切れさせるわけにはいかないですから。また、見かけや追求する履き心地はずっと一緒だけど、少しずつマイナーチェンジは繰り返しています。その時代に応じたちょっとした丈感の変化や、カラーバリエーション、素材の見直しだったり。

ーそのために、配慮や工夫されていることは?

やっている中で必ず何かしらのアクシデントは起こりますから、例えば糸の入荷が予定より遅れたとか、編み機の調子が悪いとか。そういったときにどう対処するか、今後それが起きないようにどう改善するか。これの繰り返しですね。プレッシャーはありますよ。少しでも店頭への入荷が遅れるとすぐにタビオや、越智会長(※1)からも連絡が来ますから(笑)。でもそれだけお店にとって重要な商品を手掛けていることは、誇りに思っていますね。

(※1)
タビオ株式会社 代表取締役会長 越智直正

「風合い」とは、「見てよし、履いてよし」

ー三岡社長が思う、「風合い」とはどんな感覚ですか?

いろいろな意味が含まれていると思いますが、一般的には表面的な部分のさわり心地ですかね。
お客さんにとっては、着用するときの履き心地も「風合い」に当てはまるでしょうし、もちろん見た目の良さも含めて風合い。「見てよし、履いてよし」というのが良い風合い、良い靴下だと思いますね。昔、中研(※2)が履き心地を数値化するというテストをされたことがあります。大勢に履いてもらって、感想をヒアリングして人気が高かったものをデータ化していくという。でも結果は、人それぞれで良いと思う履き心地はバラバラでした。だから一概にこうすれば絶対に良くなると言い切れるものはないから難しさはあるけど、私たちなりにこういう靴下が良い靴下じゃないかと日々考えながら仕事をしていますね。

(※2)
タビオ奈良株式会社 研究開発事業部(旧名:中央研究所) 商品研究や品質テストなど、タビオ品質の一切を守る検査機関

「みんなで考え、みんなで作る」

ーハッピープロダクツさんのモットーを教えてください。

「みんなで考え、みんなで作る」を会社として掲げています。
さっきも話があったように、一言に「良い履き心地」と言っても、感じ方は人それぞれです。これが「良い商品」とはという問いかけでも、人によって見かけが綺麗だったり肌触り優しいだったり、快適であったり感じ方や考え方はそれぞれだと思います。だから、私たちはそうした意見をみんなで出し合って、「より良くなるには、どうすればいいのか」と常に考え、話し合っています。ものづくりのことはもちろん、工場のみんなの働く環境のことや、靴下業界の今後の状況とか、ここが改善できるともっと良くなるのではないかとか。もちろん、時にタビオを巻き込んでやらないといけない事はしっかり問題提起もさせてもらいますし、それを話し合える環境にもありますね。

ー三岡社長に言ってもらって気づく部分も我々も多いです。

タビオグループはニッター同士で話し合うことも多いので、情報の共有であったり、考え方を話し合ったりする機会が多いのはとても良いことと感じています。

「守り抜くこと、変えていくこと」

ー先代から受け継がれたものは何ですか?

私と父親は、タイプが違いますからね。真面目なところは似ているかもしれないけど、熱心さは父親がずば抜けていたと思う(笑)。不易流行の考え方、「守り抜くことと、変えていくこと」の両輪の感覚は先代から受け継ぎましたね。

ー不易流行、まさしくコットンブレンド無地がその象徴のように感じます。

先代の頃からやっている商品で、私が受け継いでからもずっとどのお店でも扱ってもらえているのは嬉しいですね。これからも定番商品として守り続けたいし、時代に合わせたマイナーチェンジは思索していきたいですね。

ー最後に三岡社長の夢を聞かせてください。

みんなが安心して働ける会社にしたいですね。
いま世間は働き方改革との声が広がっていますが、良いものをつくろうと思えば当然良い環境じゃないと、思うものは出来ないと考えています。私が経営を引き継いだ当時、正直経営者として胸を張れる環境ではなかったから、どうしても改善したかった。だからすぐそれに取り掛かって、毎年少しずつですが、改善を図っています。これからも、靴下づくりにいい風に影響が出るように、みんなが安心して働ける会社にしていきたいです。これは夢と言うより、義務だと思っています。
それから、個人的にはもっと違う「靴下」を表現したいなと思っています。つくりもそうだし、見せ方や展開の仕方も含めて。まだまだ靴下には可能性も、進化する余地があると思っています。カバーソックスが一般的になったのも、ここ10年くらいの話だしね。靴下は「私の人生」だと思っているし、これで生活もさせてもらっている。靴下に感謝していますし、靴下に恩返しがしたい。
もっともっと靴下の新しい魅力を引き出せるようになっていきたいですね。

あとがき

20数年に渡って、ずっと続くベストセラー。
靴下屋の看板商品として、その商品を守り抜くのは決して簡単な事ではなく、日々の気づきと改善の大切さを改めて痛感した。ベストセラーを守りながら、新しい挑戦にも挑まれている姿は「不易流行」いつまでも変えないことと、変えていくことを体現されていると感じた。

文章・写真:畑中 絢哉
靴下ソムリエ認証番号 第17006)

服飾関係の学校を卒業後、タビオ株式会社に入社。Tabioブランドの商品MD、靴下屋ブランド商品MDを経て得た、靴下の知識やものづくりのこだわりをより多くのお客様に伝えるため、現在ウェブサイトの商品説明やコンテンツ制作を中心に日々情報を発信しています。

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