case.2 靴下に、愛を込めて』
株式会社大昌

奈良県広陵町の1950年創業の株式会社大昌。
特に「靴下屋」のレディース、厚みのあるローゲージから標準の厚みのミドルゲージ商品を主力に生産しているニッター。そんな大昌の大廣専務にものづくりのこだわりを伺いました。

タビオの秋冬の定番、
「足のセーター」

靴下に、愛を込めて。足のセーター

ー大昌さんの工場特徴を教えていただけますか。

ウチはダブルシリンダーの「リンクスメッシュ機(※1)」を主力に、
他にシングルシリンダー(※2)の156本を保有しています。
商品で言えば冬の定番「ダイヤケーブルロークルー」や、
ゴム糸が入っていない優しい履き心地の
「くるくる無地ショートソックス」などがあります。

「靴下屋」ブランドの婦人靴下が主力のニッターです。

ー「ダイヤケーブル」は靴下屋の秋冬の定番商品となっています。開発秘話をお聞かせください。

実はこの商品は、2013年に急逝した兄さん(※先代社長)が、最後に残してくれた商品なんです。
元々、先代やその先代の時から大昌は商品に凄く厳しい文化があり、
この商品も数え切れないほどの素材選びや修正を繰り返して誕生しました。
見た目のボコッとしたニット感だったり、履いた時の肌触りだったり。
表糸(※3)も別注でこの商品のためにつくった糸だし、裏糸(※4)も別注素材です。
この品質で定価700円は、他社には負けていないと自負しています。

(※1)
扱いの難しいダブルシリンダーと呼ばれる機種の一種で、
ニット製品らしい生地の凹凸や、
素材の風合いを表現することに向いている機械
(※2)
複雑な柄を表現することが得意な、
トレンド感ある柄物ソックスなどをつくることに向いている機械
(※3)
靴下の主素材となる糸。
綿やウール、アクリルなどが採用されることが多い。
(※4)
ナイロンやポリウレタン素材が主でフィット感を出すための伸縮性のある糸。
靴下では表糸と同時に編み込む。

ーケーブルの出方具合が、ニットの雰囲気が凄く出ています。

素材もそうだし、編み方にも工夫を凝らしています。
一見、無地のシンプルな靴下だけど、
ボコッとした柄を出すためにジャカード編みをしています。
通常は多色でカラフルな柄を見せるための技術だけど、
副産物の凹凸を応用してこの編み方にしました。
この靴下を一言でいうなら、テーマは「足のセーター」だね。

あれ』

靴下に、愛を込めて。匠のニッターであれ

ー「ダイヤケーブル」「リブベタ」「くるくる」「ラメ」等など・・・。大昌さんは長年続く定番商品が多いです。

ウチはタビオの会長から、先代達の頃からずっと
『大昌は匠のニッターを目指せ』と言われ続けてきたようです。
毎シーズン新商品を出すのも勿論大事だけど、「核」になる商品を
つくりあげてそれを長期間販売できるようになれ、と。
だから試作をつくるときは凄く時間も掛かったし、
苦労も多かったみたいです。
何度良いものが出来たと会長に見せにいっても、
『ここがまだダメだ』と全然OKが出なかった。
ほんの少しの微調整も含めて、数え切れないほど試作をつくって、
ようやくOKが出たのが今のウチの定番商品たち。
先代達がつくりあげてくれたこの商品を、僕は誇りに思うし、
ずっと守っていきたいと思いますね。

先代の想いを守りながら、次世代へと受け継ぐのが僕の役目

靴下に、愛を込めて。先代の想いを守りながら、次世代へと受け継ぐ

ー特に定番化した商品へはそれぞれ思い入れがあると思います。

実は僕は兄さん(先代の社長)が急逝されてからこの大昌へやって来ました。
来たときは素人同然で、勿論今も勉強中だけど。
株式会社大昌は、社員のみんなも兄さんを慕っていたし、文字通り兄さんの会社だった。
入社した当時は大変な状況だったけど、
次の代までこの大昌と先代の想いを守るのが僕の役目だと決心しましたね。
今ウチの定番商品のほとんどは、兄さんがつくった商品。
最初に話をした「ダイヤケーブル」は2013年にデビューした商品で、
店頭に並ぶのを待たずに兄さんは亡くなった。
お客さんにとっては、そんなこと感じて貰わずに純粋に商品を楽しんで欲しいけど、
僕たちにとってはとても大事な商品ですね。

ー大廣専務にとっても、大きな思い入れがあるのですね。

幸いにも、大昌の腕のいい職人や加工場のみんなが、
ここぞとばかりに一丸となって会社を守ってくれた。
でも僕は靴下は素人で、機械を回すことは出来ないからサポートに徹しただけです。
みんなが少しでも働きやすいように、外注してる加工屋さん含めて、
全体がうまく回るように裏側から仕事を支えていこうと。

お客様に良いものを出したい、
完璧なものを出したい

靴下に、愛を込めて。お客様に良いものを出したい、 完璧なものを出したい

ー大廣専務にお電話すると、いつも電話越しにミシンの音がします。

僕もタグ付けのミシンを踏んでいることが多いですからね。
加工場のみんなからしたら邪魔かもしれないけど(笑)
朝イチで生産計画や糸の段取りが終わったら、加工や出荷の手伝いをしています。
少しでも自分の目で見て、手で触れて商品を確かめたいから。
ウチは、昔ながらのやり方なので、セット加工や仕上げ加工(※5)は外注先にお願いしています。
もちろん長年お願いしている信頼できる外注屋さんに依頼していますが、最後の検品は全部自社で自分たちの目と手で確認しています。
これも先代の頃からの大昌の考え方で、最後は自社で、自分たちの手でお店へと送り届けたいと思っています。
  
(※5)
靴下業界では、編み機で生地を編んだ以降は各工程をそれぞれの外注先に委託し製造する分業制が主流

ー花嫁を送る父親のような気持ちですね。

丹精込めて育てた子たちだから、本当に近しいものがありますね。
愛を込めてというのか、良い生涯を送れよというのか、そんな気持ちで商品を最初から最後まで責任を持って手掛けています。
これだけは、どれだけ効率化を求められても貫いていきたいですね。

もっと良いものを出すために、
もっと「チームワーク」を

靴下に愛を込めて。もっと良いものを出すために、 もっと「チームワーク」を

ー大昌さんの今後の夢は何ですか?

今以上に、工場を一つのチームにしていくことですね。
勿論今もみんな頑張ってくれていて、僕は凄く良いチームだと思っています。
だけど、もっともっと色んな情報を共有し合って、
例えば外や家で誰かが不意に言った感想とか。
そうしたものを取り入れ続けられると、
より良い商品に向かって常に改善できると思うんです。
やっぱりつくり手側ばっかりじゃなくて、消費者の声が大事だし、貴重だから。
ちょっとしたことでも良い。それで商品が更に良くなっていくと信じているから。
そういうことを言い合えると、職場の雰囲気も良くなるしね。

ー今以上に「もっと」と言うのが、大昌さんのものづくりの姿勢が現れているような気がします。

言われたらそうだね(笑)。
無意識だったけど、それが大昌の風土ですね。

あとがき

靴下に、愛を込めて。あとがき

「大昌の、兄さんの想いを守る」という言葉がとても印象的で、
大昌さん会社全体がそれを体現するかの如く
一丸となって日々ものづくりに取り組まれているのがうかがい知れた。
同時に、「最後は自分たちの手で送り届けたい」と、
自社の靴下たちへの愛と想いの深さに改めて感銘を受けた。
この想いが、長年多くの人に愛される定番商品へと繋がるのだろう。

文章・写真:畑中 絢哉
靴下ソムリエ認証番号 第17006)

服飾関係の学校を卒業後、タビオ株式会社に入社。Tabioブランドの商品MD、靴下屋ブランド商品MDを経て得た、靴下の知識やものづくりのこだわりをより多くのお客様に伝えるため、現在ウェブサイトの商品説明やコンテンツ制作を中心に日々情報を発信しています。

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