靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

case.5 『モノ』『コト』『ココロ』
株式会社ウェル

奈良県広陵町、1961年創業の株式会社ウェル
ふんわりとした優しい生地の「ローゲージ」を専門に扱うニッターであり、靴下屋のレディース・TabioMENのメンズ商品を手がけるニッター。ローゲージの雄としてタビオ創業期から共に歩んできた軌跡とものづくりのこだわりを、藤本社長にお伺いしました。

ローゲージ専門ニッターとして

靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

ウェルさんはローゲージ専門家として多くの商品を製造していただいています。

靴下屋通年の定番商品となってくれている「デオドラント6×2リブショートソックス」や冬場はウール高混率の糸で編み立てをした「紡毛ゴム長ベタアンクソックス」などを手がけています。レディース・メンズの両ブランドの商品を製造しています。
靴下工場ではそれぞれ主力の武器を皆さんお持ちだと思うのですが、うちはローゲージのみに特化した機種配台と商品研究を行なっています。

タビオ創業期からウェルさんとはお付き合いがあったようですが、その頃からローゲージ専業だったのですか?

当時はもう少し薄めの生地の「ミドルゲージ」の工場でした。今では100台を超える機械台数を保有していますが、その頃はまだ規模も小さくて農業と兼業しながら家の納屋でミドルゲージを8台だけで生産していたようです。タビオと取引が始まったのは私が中学生くらいの時の話だから、もう半世紀近くも前の話ですけどね(笑)
タビオと取引が始まってからもしばらくはそのミドルゲージの商品を製造していたのですが、当時のタビオの主力工場だったニッターさんが廃業されるときに、そこの主力であった「96N ※1」の機種を譲り受けました。それがローゲージ専門としての始まりでしたね。
※1・・・編み機内に針が96本の機械。靴下ではローゲージに分類される。

それまでの機種とは違うことに、不安はありましたか?

ローゲージの商品の魅力や可能性を感じていたので、そこは望むところだという気持ちでしたね。廃業されたニッターさんから、受け取ってくれないかと指名されたことも嬉しかったし、越智会長(当時は社長)からも「お前のところはローゲージをやれ!それを極めろ!」と激励(?)も受けたから。そんなきっかけがあって、ローゲージ1本のニッターとしてやっていくことになりました。今振り返ったら、もともと持っていたミドルゲージや他の商品をやめてローゲージに集約したことで技術力をそれに集中でき、うちの切り札になっていると思っています。

靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

「モノ」「コト 」「ココロ」

「モノ」「コト 」「ココロ」を重視して日々ものづくりに取り組んでいます。
『モノ』とは「魅力ある品質の良い商品」、見てよし履いてよしの考え方です。
『コト 』とは「良い素材の持ち味を生かす」、培った技術やアイデアで、素材の特性を最大限に生かすこと。
『ココロ』は、「職人やデザイナーの想い入れ」、こういう商品をつくりたい、こういう風に履いてほしいと、「履く人がどんな風に履いてくれるかをイメージすること」
この3つの調和がとれているのが良い商品と考えています。
社内ではこれらを一言にした、「自分が大切にしている人にプレゼントしたい靴下をつくる」をモットーにしています。
越智会長から、常々「自分の感性を磨け」と言われてきました。常に良いものに触れて、自分の感覚を育てろ。そうすると素材の良し悪しや見た目、履き心地、すべての良し悪しが見抜けるようになる、と。初めはとりあえず越智会長が言うからやってみるかという気持ちでしたが、不思議なもので徐々に分かってきたような気がするんですよね。

「分かってくる」ですか。

言葉にするのは難しいですが、パッと商品を見た時にわかる「違和感」、感覚のズレみたいなものですね。もう少しフワッと仕上げて欲しいとか、ゴム丈を1ミリ伸ばした方が商品に締まりが出るとか。靴下が話しかけてくるような感覚ですね。もっとこうして欲しいと。
目指す方向が分かってきたら、こうしてあげればそれに近づくということが感覚的に理解できる。越智会長は自分の中で理想とする商品を持てと常々話します。
これだ!という理想の商品が自分の中で描けていたら、上がってきたサンプルのどこを直せばより良くなるのかが瞬時にわかる。越智会長は若手だった私にそれを気づかせたかったのでしょうね。

タビオの倉庫でアルバイト

靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

先代の時から、藤本社長は工場を手伝われていたのですか?

そうですね。私が物心ついた頃から家業で靴下製造をしていましたので、小さな頃から手伝いでずっと靴下に触れていました。タビオと取引が始まって、タビオの中でも主力工場として取り扱ってもらっていたこともあって、学生時代にはタビオさんの物流倉庫でアルバイトもしていました。

藤本さんがタビオでアルバイトですか。それは知りませんでした。

当時はまだ流町(大阪市平野区流町)にタビオの事務所と物流倉庫があり、そこで日本各地へ商品を出荷する手伝いをしていました。
大学を卒業して家業を手伝いに戻りましたが、しばらくして私と、もう一人同い年のタビオの社員の方と月二回、土曜日に越智会長宅で定期的に勉強会をしてもらうようになりました。ものづくりや商品のことはもちろん、古典を通じて人間力を高めることや人としての生き方、仕事に対する考え方、物事の原理原則を教えていただきました。
毎回夜から明け方にかけてありましたね。みんな若かったからね。

月二回の夜通し勉強会ですか。

明け方になって、コックリ居眠りでもすれば会長に怒鳴られる(笑) 懐かしいですね。
それから時が経ってある日会長が言ったんです。「あの勉強会はワシが一番勉強になった。本で学んだことをお前らに話すことによって自分の理解度を深める形になった」と。私たちには「お前らはこれから仕事や人生で極限状態に追い込まれた時に乗り越えられるように強くならんとあかんから、その訓練になったやろ!」という具合に(笑)。 でも20代の頃から会長にそうやって仕込んでもらったことは、大きな財産になっていますね。

無限の可能性

靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

改めてローゲージの魅力を藤本さんの言葉で教えてもらえますでしょうか。

細い糸から太い糸まで、ある程度どんな糸でも編むことが出来るのが特徴ですね。細い糸を束ねて柔らかい生地を編むことも出来るし、細い糸と太い糸を組み合わせることも出来る。冬はウール素材を組み合わせたり、夏場は麻素材でザックリ編むことも出来る。だから素材の数だけ、無限の可能性があると感じています。

靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

靴下を一度洗うソーピング加工や、後工程を自社で持たれているのもその考えが元ですか?

そうですね。ウールやカシミアなんかだと、洗いの工程でどう縮めてあげるか、風合いを出してあげるかで出来上がりが大きく変わるからね。自分のところにその設備を構えることで、商品ごとや場合によってカラーごとに合わせた調整を常に出来る環境にしています。
社内の工程は、すべてワンフロアで見通しも良くなるように改装しました。自分の次の工程を担当する人の様子や内容、気持ちがわかると、次の人がやりやすいようにだったり求めていることがよりわかるようになりました。小さなことですがこうした積み重ねが最終的に手にとっていただくお客様の気持ちに寄り添った商品づくりが出来ると信じています。

靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

最後にウェルさんの夢を聞かせてください。

いちばんお客様に喜ばれる会社にしたいです。いつまでもお客様に喜んでもらって、社員のみんなが誇らしい仕事だと感じ続けてくれることですね。そうした輪が広がっていって、地域の活性化や靴下業界の活性化にも繋がってくれれば言うことはない。私にとっても靴下は生涯携わっていたいものだし、私たちの手がけた商品で誰かが幸せになってくれるならこれ以上の喜びはないですね。そうした商品をこれからもつくれるように、研究と努力に励んで行くつもりです。

あとがき

靴下工場、奈良県広陵町株式会社ウェル

ローゲージの雄として、メンズレディース共に多くの定番商品を手掛ける
株式会社ウェル。
現社長の藤本社長はインタビューでもあったように越智会長の愛弟子として若い頃からものづくりや考え方を共にし歩まれてきた。
藤本社長のものづくりやタビオとの関係性をお聞きして、取引先だけの関係では決してない、越智会長が常々話す「理念共同体」、良い商品を追求する集団の姿が、今回の取材を通し垣間見ることが出来た。

文章・写真:畑中 絢哉
靴下ソムリエ認証番号 第17006)

服飾関係の学校を卒業後、タビオ株式会社に入社。Tabioブランドの商品MD、靴下屋ブランド商品MDを経て得た、靴下の知識やものづくりのこだわりをより多くのお客様に伝えるため、現在ウェブサイトの商品説明やコンテンツ制作を中心に日々情報を発信しています。

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