case.7 『ものを見る厳しさ』
株式会社和晃

奈良県香芝市、1947年創業の株式会社 和晃
薄手で密度が細かい生地の「ハイゲージ」を主体に製造しメンズビジネスソックスやレディースの繊細な靴下を手がけるニッター。そんな和晃の田中社
長にものづくりのこだわりや取り組みを伺いました。


老舗紳士物ニッターの成り立ち

和晃さんといえば「ハイゲージ」の老舗ニッターであり、TabioMENのビジネスソックス他、靴下屋でも繊細なフェミニンなシースルー商品を多く生産していただいてます。

現在薄手で繊細な生地や柄の表現が出来るハイゲージの編み機に特化しています。リブやジャカードを編めるダブルシリンダーと、複雑な柄を表現出来るシングルシリンダーを50台ずつ、計100台を保有しています。
創業者は私の父で、創業は1947年、戦後間も無くの頃に何か始めないといけないと思い立ったのが靴下製造のきっかけでした。初めは手回しの編み機が数台で、電気の通電もままならない時代だったので発電機を購入し動かして操業していたようです。
当初はミドルゲージとローゲージの機種で、紳士物を主力に製造していました。

現在のようにハイゲージが主力になったのはいつ頃からですか?

今から40年くらい前からですね。百貨店の商品を製造することになったので、紳士物のドレスソックスを編めるハイゲージの靴下工場にシフトチェンジしました。そして現在でもハイゲージを主力とする靴下工場となっています。

タビオとの取引はどのようなきっかけだったのですか?

タビオの越智会長と知り合ったのは20年くらい前のことですね。当時のタビオさんの主力工場の社長と私の父が親戚だったこともあり、縁あってお付き合いが始まりました。タビオさんと取引が始まってからはそれまでの紳士ビジネスソックスと、新たにハイゲージの特性を生かした繊細なレディース商品も製造するようになっていきました。

レディース商品を新たに手がけることについて戸惑いはありましたか?

そこに抵抗はなかったですね。もちろん紳士物と婦人物でサイズやフィット感、デザインは違いますが「良い商品をつくる」ことを目指すのはどちらも同じと思っていましたから。それよりも新たな世界が広がることと挑戦が出来ることが嬉しかったです。

一等品の商品には、品質の高い素材

これまでの歴史の中で、貫き通されていることを教えてください。

1つは素材選びですね。私たちの素材は、「品質の高い糸に集約する」が主軸です。何も高ければ良い素材というわけでは決してありませんが、当社の主力であるハイゲージは1本の糸で編立てるので、綿やウールといった表糸の味がそのまま出てきます。だから上質な素材を使って、一等品の商品をつくる。この考え方は昔からずっと持っています。近年の日本の繊維業界は、海外生産の波と価格競争で良い物から順に消えていっています。私たち自身が、上質な素材を今後も使えるように、素材の種類を厳選してロットをまとめて紡績メーカーに依頼しています。

日本の川上の繊維業界は、後継者不足や高齢化もあり厳しい状況が続いていると聞きます。

ロットをまとめて依頼することで、染色工場や後工程もメリットが出るから、相手先も非常に協力してくれますね。もちろん商品の品質も上がりますし、今のクオリティを維持することにも繋がると思っています。「自分の思う商品をつくろう」と思うと、一番大事になってくるのは、要は取り組み、「人と人との信頼関係」だと思っています。また、積極的に新卒社員を採用を行って、先輩技術者との連絡を密にし、技術の継承とものづくりの楽しさをそれぞれが実感できるような会社にしていかなければと思います。

和晃さんにお伺いする度に、生産から検品現場まで綺麗で整然とされているなと感じます。

ありがとうございます。でもまだまだと思っています。
実は、先代の頃はもっと工場も倉庫もぐちゃぐちゃの状態だったんです。それこそ、どの糸がどこにどれだけあるかがわからないくらいの状態でした。私が平成元年に社長業を引き継いでから、特にここを注力して長年に渡って改善を図ってきました。

今の和晃さんからはとても想像できないです。

私も入社直後からしばらくは、編み立てや後工程、検品工程の現場仕事の一通りをずっとやっていました。その時の和晃はお恥ずかしい話、とても整理整頓が行き届いた生産性の上がる工場とは言えない状態でした。倉庫も在庫管理も乱雑で、何がどうなっているのかが把握できないくらいに。平成元年に社長交代で事業を継いだのですが、ちょうどその時代から数年後に靴下業界自体が海外製品の波に押されて、うちも経営的にも苦しい状況でした。だからまずはこれを改善していかないといつまでも利益が出ないし、より良い自信のある商品は出せない。社員にも無理をさせ続けてしまうと思い、真っ先にこの改善に取り組みました。
今までに約20トンくらいの糸を捨てましたね。1年間のうち、3ヶ月は朝から晩まで倉庫に入りっぱなしでした。
あの時、思い切って新体質に脱皮出来たことが転機になったと思っています。

自社での検品体制も、当社は相当な人数をかけて行っています。生地の編み立てから、各工程ごとで検品を行いますが、最終工程にも人数をかけて、入念にチェックします。この最終検品でB品としてハネるのは、全体からみると0.4%前後ですが、それでもお店やお客様のところで不良が発見されるよりは絶対に良い。このコストは勿体ないとは思いませんし、これからも継続してやっていかないと、と思っています。良いブランドというのは、「ここの商品を買っていれば間違いない」と思ってもらえることだと考えています。だから私たちメーカーとしては、まずは「品質管理」、ここが一番キーになってくると思っています。

徹底された品質管理

―(ここから工場内の見学に、案内していただく)

工場内は編み機の機械音が賑やかだが、整理整頓が行き届いている。

(社長)うちのこだわりの一つが靴下の履き心地の肝となる裏糸にあります。 ※靴下は主となる綿やウール素材の表糸と同時に、フィット感を出すためにナイロンポリウレタンの伸縮性に富んだ裏糸を同時に編み込む

裏糸は通常染色工場で染められた後、「コーン」と呼ばれる巻き上げをされた状態で我々ニッターのところへ納品されます。ですが当社では、その「コーン巻き」をしない状態で納品してもらっています。そしてそれを使用する直前に自社で巻き上げを行なっています。

―ストレスのかからない「かせ」と呼ばれる状態で保管される裏糸

当社のハイゲージで採用している裏糸は、ソフトフィットでビジネスソックスにとても向いていますが、あまり長期間巻き上げをした状態で保管しておくと伸縮糸が「伸びきって」しまいます。だから、糸にストレスがかからない状態で保管しておいて、編み立てをする直前に巻くことでそれを解消しています。

また、繊維製品をつくる上で大事なのは、いつも一定の湿度で繊維の状態を整えてあげること。だから製造現場には、細かい霧を噴射させる装置をつけて常に湿度が一定になるよう管理しています。

―常に一定の条件になるように管理が行き届いている

最後に、田中部長に今後の夢を伺った。

(田中部長)社長がこれまで築いてきたハイゲージニッターとしてのプライドを保ち続けたいです。技術者をはじめ社員たちは皆、繊細で豊かで、熟している匠たち。一丸となって、これからも多くのお客様に喜んでもらえる商品をつくり続けていきたいです。

社長から受け継ぎたいものは?との問いには、「社長の持っている『ものを見る厳しさ』です。後継者としてここを特に近くで学んで成長していきたいです」

あとがき

創業から70年以上、ハイゲージの国内トップメーカーとして商品を提供し続ける株式会社和晃。老舗ながら、とても協力的に柔軟な対応をいつもしてくださっている。数シーズン前、春休み商戦に突入する直前の打ち合わせで工場を伺った際に、入り口の従業員の方用のタイムカードの横に『タビオさん最盛期です。土日出勤できる方は協力お願いします』とピーク時の増産体制を呼びかける貼り紙が目に入った。とても恐縮であったが、大変有難く直ぐに営業メンバーをはじめ社内に共有した。皆その有り難さに感動し、より一層店頭も熱気を帯びた。私にとって今でも忘れないとても嬉しいエピソードだ。

文章・写真:畑中 絢哉
靴下ソムリエ認証番号 第17006)

服飾関係の学校を卒業後、タビオ株式会社に入社。Tabioブランドの商品MD、靴下屋ブランド商品MDを経て得た、靴下の知識やものづくりのこだわりをより多くのお客様に伝えるため、現在ウェブサイトの商品説明やコンテンツ制作を中心に日々情報を発信しています。

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