いいソックスは、ていねいに作られている。

新しいソックスを購入したのに、ちょっとした気になるところがあって、結局は、いままで持っていたお気に入りの一足ばかりを履いてしまう。そんな経験はありませんか。素材、色、形、サイズ。同じように見えても、いいソックスと悪いソックスは確実にあるものです。例えば、ロングホーズがずり落ちてくる。つま先の縫い目が当たってゴロつく。ソックスの色落ちで、足が真っ青に。洗ったらすぐに毛玉ができる。そこまでではないにしても、「なんだか履き心地が違うなぁ」と思うソックスは、タンスにしまい込まれたままになってしまいがち。

いいソックスと悪いソックスの違いは何でしょう。答えは、シンプルです。ていねいに作られているかどうか。今回、Tabioのソックスを生産する提携ニッターを奈良に訪ねて、そのように確信しました。

いいソックスのファクトリーは奈良にある

奈良県の東部、広陵町を中心としたエリアはソックスの産地として知られています。「この辺りは雨が少なくて、稲作の代わりに綿花を栽培する農家もありました。納屋の軒先に織機を置いて木綿を織る副業をしていたところから、産業が発展してきた」と教えてくれたのは、三岡繊維株式会社の靴下事業部長を務める梅本博司さん。Tabioが信頼するニッターに勤続して19年、「いいソックス」を作る達人の一人です。

ファクトリーに一歩足を踏み入れると、古い編み機がガシャンガシャンと音を響かせています。このエリアでもそれほど多く残っていない、バンナー機と呼ばれる貴重な編み機。その特徴は、ソックスの底と甲で、素材や色を変えて編めること。例えばビジネスソックスでいえば、汗をかく足底部分には吸湿性にすぐれた綿素材を、甲より上の部分にはしなやかなシルクを使用するといった具合です。

数字で測れない匠の技が作る、絶妙の伸縮性

編み機に付けられた編み方のパターンを決めるパネルを指さしながら、「この操作を覚えるのに何年もかかりますか?」とファクトリーを案内してくれた梅本さんに問うてみました。「それだけだったら、二週間もあればできますよ」と意外な回答。そして、シンカーループと呼ばれる下向きの編み目の編み方をコントロールする細かいパーツをチョンチョンといじりました。「このソックス、さっきと比べてどうですか」と手渡された生地を両手で引っ張ってみて、驚かされました。それまで編んでいたものとは、伸縮性が明らかに異なっていたのです!「わずか数ミリ、見えないくらいパーツをいじっただけですけどね」。パネルのスイッチだけでは作れない匠の技が、ここにあります。

ずり落ちない。それでいて、ふくらはぎを絞めつけ過ぎない。毎日でも履きたくなるソックスは、このようにつくられているのです。

生産が一段落つくシーズンの変わり目には、編み機を休ませて調整したり、パーツをバラして掃除したり磨いたり。「機械にゴミやキズがあると、生地を傷める場合もありますからね」。よりよいもの作りをするために行う機械のパーツ改造も、それをいじる工具も、ひとつひとつ自分で製作するといいます。古い機械に対して、ていねいに向き合う。いいソックスを作る姿勢の根本を、垣間見た気がしました。

五感を使って、いい履き心地といい風合いを目指す

ソックスのつま先部分を、機械ではなく手縫いで縫製し、ゴロつきのない滑らかな履き心地にする「リンキング」手法。つま先と甲の継ぎ目にあたる細かな編み目にリンキングマシーンの針を一本一本通して、余分な生地をほどいていく、そうとうに手間のかかる工程です。「色がダークで無地が多いメンズのビジネスソックスは、編み目が見えづらいので、特に難しい」。試しにと、私自身もトライしてみましたが、熟練工の女性の手取り足取りの指導にもかかわらず、ただのひと目も通すことができませんでした。

Tabioでもの作りにかかわる社員は、生産途中、あるいはできあがったソックスを、五感でチェックするといいます。触ったり、匂いを嗅いだり、噛んでみたり、あるいは生地の音に耳を澄ましたり。今回のファクトリー取材でも、そうした瞬間を目にしました。編みあがったソックスを仕上げに送る前に、大型のランドリーで洗い、ドライする工程。乾きあがったソックスを手に取ると、匂いを嗅いでいるのです。機械で作ったときに付いてしまう油の匂いが、消えているか。反対に、洗ったときの洗剤の匂いが残ってしまっていないか。それを確かめるためです。乾燥は、回転ドラム式乾燥機ではなく、網の上に大量のソックスを干物のように並べられる大型乾燥機が使われています。回して落として叩きつける回転ドラム式は、生地を傷めて毛玉ができやすくなることもあるため、生産効率の落ちる乾燥機をあえて使う。ここにも、クオリティファーストの姿勢があります。

消費者の声は、ファクトリーと即時で共有

じつは、Tabioには自社工場がありません。本社でデザインされ、企画されたものを、「いいソックスを作る」ことに誇りを持ついくつものニッターが生産するのです。その密接な信頼関係は、取材中にも感じられました。あちらこちらで「まいど」と明るく声を掛け合っているのが、ニッターの方なのかTabioの社員なのか、取材するこちらからではわからないほど。直営店やフランチャイズ店から日々届けられるお客様の声や売れ行きデータは、すべてのニッターのファクトリーにも即時に共有されるというから驚きです。

「靴下に忠実。靴下に謙虚」。商品の検査と品質管理を行う研究開発室で、そんな標語が目に留まりました。ていねいに作る。もっとていねいに作る。Tabioは、さらにいいソックスを目指しています。

山本晃弘(やまもとてるひろ)

服飾ジャーナリスト。『アエラスタイルマガジン』エグゼクティブエディター兼WEB編集長。『メンズクラブ』『GQジャパン』」などを経て、2008年に『アエラスタイルマガジン』を創刊。2019年に自らの会社ヤマモトカンパニーを設立し、ファッションに関する編集や執筆のほか、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南する「服育」アドバイザーとしても活動中。著書に『仕事ができる人は、小さめのスーツを着ている。』がある。

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